フィオナの運命
「少しここで待っていてくれる? 執務中のルシアス様にひと言伝えたらすぐに戻るよ」
「はい、分かりました」

以前と同じ客間に通され、フィオナはソファに座ってユーリを待つ。

しばらくして戻って来たユーリは、紅茶とクッキーをフィオナにふるまった。

「どうぞ、召し上がれ」
「ありがとうございます」

勧められて、フィオナはゆっくりと紅茶を味わう。

「美味しい……」

心までほぐれたように、ホッと息をついた。

しばらくすると、ユーリが改まって口を開く。

「フィオナ、おばあさんのことお悔やみ申し上げます。葬儀にも参列できずにごめん」
「いえ、そんな。王宮に遣える方に、田舎の葬儀に来ていただくなんてできませんから」
「だけど俺はあの日、おばあさんと楽しくおしゃべりさせてもらったんだ。まさかそのあと突然……。ショックで信じられなかった。ましてや君の悲しみはいかばかりかと、心配でたまらなかった。ルシアス様も、同じように心を痛めていらっしゃったよ。立場上、ずっと君のそばについていてあげられないことが、とてもお辛そうだった」
「国王陛下が? まさか、そんな」

フィオナがそう言うと、ユーリはふと視線を上げた。

「ああ、そうか。君はちゃんとルシアス様を国王陛下だと認識できているんだね。俺だけが情けないことばかり考えている」
「え? それは、どういう意味なのでしょうか?」
「うん……、難しいな。時間を進めたくないんだ。できれば今、この瞬間にでも止まってほしい」

なにかを堪えるようにギュッと眉根を寄せたユーリに、フィオナはそれ以上聞けなくなる。

代わりに、ずっと聞きたかったことを思いきって聞いてみた。

「前国王陛下は、あの時わたくしになにをお願いされていたのでしょうか?」
「え? それって、謁見の間でのこと?」
「はい。わたくしのことを、シャーマンの血を引く『生命の巫女』とおっしゃいました。王家にかけられた呪いを解き、この国の次期国王となるルシアス王太子殿下を守るようにと。わたくしのような田舎娘に陛下が自ら頭を下げられるなど、あり得ないことですよね? そうまでして、陛下は私になにを懇願されていたのでしょうか。今となってはそれを叶えられなかった自分が申し訳なく、陛下に謝罪して祈りを捧げる毎日です」
「そうだったのか……」

長い長い沈黙が広がる。

結局、全てを知っているであろうユーリから、答えを聞くことはできなかった。

「フィオナ、俺の口からは言えないんだ。だけど今日君がここに来たことは、さっきルシアス様に話しておいた。君がこれまで何度も王宮に来て、花を供えてくれていたこともね。君が今、後悔の念に駆られていることも、あとで伝えておいていいかな? ルシアス様が、フィオナに答えを伝えてくださるかもしれないから」

フィオナはじっと言葉の意味を考えてから頷く。

「はい、よろしくお願いします。それから……」
「なに?」
「ルシアス国王陛下に、畏れながら心からお悔やみ申し上げ、哀悼の意を表しますとお伝えいただけますか? 陛下のお心が少しでも穏やかになりますように。わたくしはこれからも毎日祈りを捧げます」
「ありがとう、フィオナ。確かに伝えるよ」

そう言ってユーリは優しく微笑んだ。
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