フィオナの運命
長い長いルシアスの話を、フィオナはただ心静かに聞いていた。
自分が、神の遣いと称される『シャーマン』の末裔であること。
命を繋ぎとめる『生命の巫女』としての力を授けられていること。
ルシアスの言葉のひとつひとつに小さく頷きながら、フィオナは冷静に全てを受け止めた。
だが話が王家の呪いのことに及ぶと、それまでの落ち着きぶりから一変し、驚いて目を見開いたあと、切なげにルシアスを見つめる。
やがてルシアスは、一番辛いことをフィオナに伝えた。
マーサがどうして亡くなったのかを。
「すまない、フィオナ。たった一人のそなたの大切な家族を、俺が奪ってしまったんだ」
苦しげに頭を下げるルシアスに、フィオナは首を振る。
「いいえ、ルシアス様。祖母はいつも言っていました、誰かの役に立ちたいと。ただ生き長らえているこの状況が、悲しくて辛いと。ですから祖母は、望んであなたに命を託したのだと思います。穏やかな笑みを浮かべて、幸せを感じながら、自分で天国へと旅立った。少しでも長く生きるのではなく、少しでも誰かの役に立ちたい。その願いが叶って、祖母はあなたに感謝していたと思います。ルシアス様、祖母を見届けてくださってありがとうございました。あの時わたくしのそばにいてくださって、本当にありがとうございました」
「フィオナ……」
ルシアスは込み上げる涙を懸命に堪えた。
いきなり我が身の重い運命を告げられたというのに取り乱しもせず、辛い別れの記憶も静かに語り、逆に自分を労わってくれる。
(なんと心優しく、温かく、清らかな魂を持つ子なのだろう)
フィオナだけは幸せになってほしい。
自分がいなくなったあとも、フィオナにだけは、ずっと笑顔で生きていてほしい。
その想いで、ルシアスは最後の事実を告げる。
「フィオナ。そなたが持つ『生命の巫女』の力は、自らの生命力を削り、他者へと分け与える禁断の力でもある。メルの出産を助けた時、そなたは苦しそうな表情を浮かべていた。あの時そなたは、自分の命を削ったのだ。誰かを助ければ、そなたの寿命を縮めてしまう。だからフィオナ、決してその力を使ってはならない。いいな?」
するとフィオナは、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「フィオナ?」
これまでどんな話をしても、気丈に耳を傾けていたというのに。
どうしたのだ?と、ルシアスは戸惑いを隠せなかった。
「フィオナ、すまない。こんなにも辛い話をしてしまって」
寿命が縮むなどと言われて、平気なはずはなかったのだ。
やはり話すべきではなかったと悔やんだ時、フィオナが首を振った。
「違います」
「え?」
「わたくしの命が惜しくて辛いのではありません。あなたを救えないことが辛いのです」
「フィオナ、それはどういう……?」
「わたくしには、あなたの命を繋ぎとめる力があるのですよね? でしたらわたくしは、あなたを救いたい。その為にわたくしは力を授けられたのです」
そう言ってフィオナは、ルシアスの右手首の刻印に両手を添える。
「だめだ!」
ルシアスは焦ってフィオナ手を振りほどき、真剣に顔を覗き込んだ。
「いいか、決して力を使ってはならない。そなたの命をもらって、俺が喜ぶとでも思うのか?」
「ですが、このままではルシアス様は……」
「フィオナ、さっきそなたが言っただろう? 運命を受け入れると。俺も同じ想いだ。この運命を受け入れ、ただ自分にできることだけを最後の瞬間までやり遂げる。フィオナ、その俺の生き様を見届けてほしい。そなたを守る強さを持ったまま、俺は命を全うする」
「ルシアス様……」
フィオナの瞳から涙がほとばしる。
「いやです! ルシアス様までいなくなったら、わたくしはどうしたらいいの?」
ルシアスはフィオナを抱き寄せると、そっと頭をなでながら言い聞かせた。
「フィオナ、生きていれば必ず幸せは訪れる。暗い夜は必ず明けて、寒い冬はやがて春へと移り替わる。だからフィオナ、どんな時も希望を持ち、顔を上げて生きていけ。俺が……命が尽きる最後の瞬間に目に焼きつけたいのは、そなたの笑顔だ」
フィオナは目に涙を溜めてルシアスを見上げる。
ルシアスが微笑んで頷いてみせると、フィオナは堪えきれずにまた涙を溢れさせた。
「フィオナ、泣いていいのは俺の腕の中でだけだぞ? 今だけは思いきり泣けばいい。そして強くなれ。俺の力を、全てそなたに捧げる」
「ルシアス様……」
身体を震わせて泣き続けるフィオナを、ルシアスはいつまでも優しく抱きしめていた。
自分が、神の遣いと称される『シャーマン』の末裔であること。
命を繋ぎとめる『生命の巫女』としての力を授けられていること。
ルシアスの言葉のひとつひとつに小さく頷きながら、フィオナは冷静に全てを受け止めた。
だが話が王家の呪いのことに及ぶと、それまでの落ち着きぶりから一変し、驚いて目を見開いたあと、切なげにルシアスを見つめる。
やがてルシアスは、一番辛いことをフィオナに伝えた。
マーサがどうして亡くなったのかを。
「すまない、フィオナ。たった一人のそなたの大切な家族を、俺が奪ってしまったんだ」
苦しげに頭を下げるルシアスに、フィオナは首を振る。
「いいえ、ルシアス様。祖母はいつも言っていました、誰かの役に立ちたいと。ただ生き長らえているこの状況が、悲しくて辛いと。ですから祖母は、望んであなたに命を託したのだと思います。穏やかな笑みを浮かべて、幸せを感じながら、自分で天国へと旅立った。少しでも長く生きるのではなく、少しでも誰かの役に立ちたい。その願いが叶って、祖母はあなたに感謝していたと思います。ルシアス様、祖母を見届けてくださってありがとうございました。あの時わたくしのそばにいてくださって、本当にありがとうございました」
「フィオナ……」
ルシアスは込み上げる涙を懸命に堪えた。
いきなり我が身の重い運命を告げられたというのに取り乱しもせず、辛い別れの記憶も静かに語り、逆に自分を労わってくれる。
(なんと心優しく、温かく、清らかな魂を持つ子なのだろう)
フィオナだけは幸せになってほしい。
自分がいなくなったあとも、フィオナにだけは、ずっと笑顔で生きていてほしい。
その想いで、ルシアスは最後の事実を告げる。
「フィオナ。そなたが持つ『生命の巫女』の力は、自らの生命力を削り、他者へと分け与える禁断の力でもある。メルの出産を助けた時、そなたは苦しそうな表情を浮かべていた。あの時そなたは、自分の命を削ったのだ。誰かを助ければ、そなたの寿命を縮めてしまう。だからフィオナ、決してその力を使ってはならない。いいな?」
するとフィオナは、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「フィオナ?」
これまでどんな話をしても、気丈に耳を傾けていたというのに。
どうしたのだ?と、ルシアスは戸惑いを隠せなかった。
「フィオナ、すまない。こんなにも辛い話をしてしまって」
寿命が縮むなどと言われて、平気なはずはなかったのだ。
やはり話すべきではなかったと悔やんだ時、フィオナが首を振った。
「違います」
「え?」
「わたくしの命が惜しくて辛いのではありません。あなたを救えないことが辛いのです」
「フィオナ、それはどういう……?」
「わたくしには、あなたの命を繋ぎとめる力があるのですよね? でしたらわたくしは、あなたを救いたい。その為にわたくしは力を授けられたのです」
そう言ってフィオナは、ルシアスの右手首の刻印に両手を添える。
「だめだ!」
ルシアスは焦ってフィオナ手を振りほどき、真剣に顔を覗き込んだ。
「いいか、決して力を使ってはならない。そなたの命をもらって、俺が喜ぶとでも思うのか?」
「ですが、このままではルシアス様は……」
「フィオナ、さっきそなたが言っただろう? 運命を受け入れると。俺も同じ想いだ。この運命を受け入れ、ただ自分にできることだけを最後の瞬間までやり遂げる。フィオナ、その俺の生き様を見届けてほしい。そなたを守る強さを持ったまま、俺は命を全うする」
「ルシアス様……」
フィオナの瞳から涙がほとばしる。
「いやです! ルシアス様までいなくなったら、わたくしはどうしたらいいの?」
ルシアスはフィオナを抱き寄せると、そっと頭をなでながら言い聞かせた。
「フィオナ、生きていれば必ず幸せは訪れる。暗い夜は必ず明けて、寒い冬はやがて春へと移り替わる。だからフィオナ、どんな時も希望を持ち、顔を上げて生きていけ。俺が……命が尽きる最後の瞬間に目に焼きつけたいのは、そなたの笑顔だ」
フィオナは目に涙を溜めてルシアスを見上げる。
ルシアスが微笑んで頷いてみせると、フィオナは堪えきれずにまた涙を溢れさせた。
「フィオナ、泣いていいのは俺の腕の中でだけだぞ? 今だけは思いきり泣けばいい。そして強くなれ。俺の力を、全てそなたに捧げる」
「ルシアス様……」
身体を震わせて泣き続けるフィオナを、ルシアスはいつまでも優しく抱きしめていた。