フィオナの運命
「ユーリ、ジャイラ王国へ立ち寄ったと申したか?」
バギラの問いに、ユーリは頷く。
「はい、そうです。ジャイラとは長く冷戦を続けていましたが、ルシアス様がジャイラ国王を説得され、平和協定を結ぶことになりました。かなりの好条件を示したところ、国王もそれならと承諾され、和やかに署名と握手を交わしてから国をあとにしました。その時にはルシアス様に異変は見られませんでした。ですが、本当に突然、ここへの道中で苦しみ始めたのです。あっという間に具合が悪くなり、意識もなくなってしまわれて……」
それを聞いて、バギラはますます確信したようだった。
フィオナ達を振り返ると、ゆっくりと口を開く。
「ジャイラ王国には、私と同じように預言者がいる。だが邪悪な考えをする一族で、私の祖先とははるか昔に別れた。その一族は、ジャイラ国王に代々遣えていると聞いた。そしてルシアス様の手首に刻まれたこの刻印……。おそらくその預言者は、悪魔に魂を売って呪いの力を手に入れたのだと思われる。ジャイラには、悪魔の血を引く末裔がいるからな」
「悪魔の血を? それはどういうことなのですか?」
「悪魔の血を引いているとはいえ、その末裔には大した力は受け継がれていない。だが強く念じれば、預言者の持つ力を呪いの力に変えることはできる。呪いの力を得たその預言者は、一生悪魔の手先となり、命じられるまま人の命を奪う呪いをかける。ユーリ、ジャイラ国王は本当に平和協定を受け入れたのか?」
バギラのその言葉に、フィオナも考えを巡らせた。
(そう言えば、確か書物で読んだわ。昔からジャイラ王国は、他国と友好関係を築いたと見せかけて油断させ、裏切ってきた歴史があると。もし今回もそうなら、ルシアス様と結んだ平和協定も、うわべだけだったのかもしれない)
ユーリは怪訝そうにしているが、どうやらバギラもフィオナと同じ考えらしい。
「ジャイラ国王はルシアス様を見送ったあと、悪魔の末裔を呼び出したのだろう。ほうびをやる代わりに、ルシアス様に呪いをかけろと。そして悪魔はそれを預言者に命じた。そして疑われないよう、ジャイラ王国を発って2日後にそれを実行した。刻印が見えないように細工もしてな。だがこうして私の水晶が刻印を映し出した以上、もはや疑う余地はない。ルシアス様を苦しめているのは、悪魔の呪いだ」
「そんな……」
それは、手の施しようがないという意味。
その場にいる誰もが言葉を失った。
「バギラ様のお力でも、だめなのですか?」
すがるように見つめるフィオナに、バギラはうつむいたまま小さく首を振る。
「残念ながら……。いばらの呪いと同じことなのだよ」
「それでは、ルシアス様は……!」
悲痛な声を上げたユーリは、言葉を止めた。
――このままでは、前国王と同じように――
口にせずとも皆の顔に絶望が広がる。
フィオナはグッと唇を引き結ぶと、ルシアスのそばにひざまずいた。
胸元から水晶の首飾りを取り出して、両手で握りしめる。
(お願い、どうかルシアス様を助けて)
大きく息を吸ってから目を閉じ、祈るように力を込めた。
だが水晶はまるで反応しない。
(神様、おばあ様。お願いします。私の命に代えても、ルシアス様を守って)
唇を噛みしめながら懸命に祈りを捧げるフィオナに、バギラがそっと声をかけた。
「フィオナ、そなたの力はもう残されてはいない。いばらの呪いを解いた時に、全て使い果たしてしまった」
「承知しています。ですが、諦める訳にはまいりません」
力を振り絞るように祈り続けるフィオナから、少しずつ体力が奪われていく。
バギラは、苦しげな表情を浮かべるフィオナの肩に手を置いた。
「もうやめなさい。そなたの体力が失われるだけだ」
「いいえ。ルシアス様をこのまま放っておくことはできません」
フィオナの鬼気迫る様子に、バギラも、ローラもユーリも言葉を失う。
その時、フィオナの握った水晶の首飾りが、ほのかに小さく青い光をまとった。
(反応している!?)
フィオナは水晶を握ったまま、ルシアスの右手首に手を触れる。
(どうか呪いを解いて、お願い)
だが弱々しい水晶の光は、どんなにフィオナが力を込めてもそれ以上強くはならない。
どんどん苦しそうに表情を歪めるフィオナに、ローラがたまらず声をかけた。
「フィオナ様、どうかもうおやめください。このままではフィオナ様のお身体がもちません。フィオナ様!」
ローラが手を伸ばしてフィオナを止めようとした時だった。
「うっ……」
かすかにうめいてから、ルシアスがゆっくりと目を開いた。
バギラの問いに、ユーリは頷く。
「はい、そうです。ジャイラとは長く冷戦を続けていましたが、ルシアス様がジャイラ国王を説得され、平和協定を結ぶことになりました。かなりの好条件を示したところ、国王もそれならと承諾され、和やかに署名と握手を交わしてから国をあとにしました。その時にはルシアス様に異変は見られませんでした。ですが、本当に突然、ここへの道中で苦しみ始めたのです。あっという間に具合が悪くなり、意識もなくなってしまわれて……」
それを聞いて、バギラはますます確信したようだった。
フィオナ達を振り返ると、ゆっくりと口を開く。
「ジャイラ王国には、私と同じように預言者がいる。だが邪悪な考えをする一族で、私の祖先とははるか昔に別れた。その一族は、ジャイラ国王に代々遣えていると聞いた。そしてルシアス様の手首に刻まれたこの刻印……。おそらくその預言者は、悪魔に魂を売って呪いの力を手に入れたのだと思われる。ジャイラには、悪魔の血を引く末裔がいるからな」
「悪魔の血を? それはどういうことなのですか?」
「悪魔の血を引いているとはいえ、その末裔には大した力は受け継がれていない。だが強く念じれば、預言者の持つ力を呪いの力に変えることはできる。呪いの力を得たその預言者は、一生悪魔の手先となり、命じられるまま人の命を奪う呪いをかける。ユーリ、ジャイラ国王は本当に平和協定を受け入れたのか?」
バギラのその言葉に、フィオナも考えを巡らせた。
(そう言えば、確か書物で読んだわ。昔からジャイラ王国は、他国と友好関係を築いたと見せかけて油断させ、裏切ってきた歴史があると。もし今回もそうなら、ルシアス様と結んだ平和協定も、うわべだけだったのかもしれない)
ユーリは怪訝そうにしているが、どうやらバギラもフィオナと同じ考えらしい。
「ジャイラ国王はルシアス様を見送ったあと、悪魔の末裔を呼び出したのだろう。ほうびをやる代わりに、ルシアス様に呪いをかけろと。そして悪魔はそれを預言者に命じた。そして疑われないよう、ジャイラ王国を発って2日後にそれを実行した。刻印が見えないように細工もしてな。だがこうして私の水晶が刻印を映し出した以上、もはや疑う余地はない。ルシアス様を苦しめているのは、悪魔の呪いだ」
「そんな……」
それは、手の施しようがないという意味。
その場にいる誰もが言葉を失った。
「バギラ様のお力でも、だめなのですか?」
すがるように見つめるフィオナに、バギラはうつむいたまま小さく首を振る。
「残念ながら……。いばらの呪いと同じことなのだよ」
「それでは、ルシアス様は……!」
悲痛な声を上げたユーリは、言葉を止めた。
――このままでは、前国王と同じように――
口にせずとも皆の顔に絶望が広がる。
フィオナはグッと唇を引き結ぶと、ルシアスのそばにひざまずいた。
胸元から水晶の首飾りを取り出して、両手で握りしめる。
(お願い、どうかルシアス様を助けて)
大きく息を吸ってから目を閉じ、祈るように力を込めた。
だが水晶はまるで反応しない。
(神様、おばあ様。お願いします。私の命に代えても、ルシアス様を守って)
唇を噛みしめながら懸命に祈りを捧げるフィオナに、バギラがそっと声をかけた。
「フィオナ、そなたの力はもう残されてはいない。いばらの呪いを解いた時に、全て使い果たしてしまった」
「承知しています。ですが、諦める訳にはまいりません」
力を振り絞るように祈り続けるフィオナから、少しずつ体力が奪われていく。
バギラは、苦しげな表情を浮かべるフィオナの肩に手を置いた。
「もうやめなさい。そなたの体力が失われるだけだ」
「いいえ。ルシアス様をこのまま放っておくことはできません」
フィオナの鬼気迫る様子に、バギラも、ローラもユーリも言葉を失う。
その時、フィオナの握った水晶の首飾りが、ほのかに小さく青い光をまとった。
(反応している!?)
フィオナは水晶を握ったまま、ルシアスの右手首に手を触れる。
(どうか呪いを解いて、お願い)
だが弱々しい水晶の光は、どんなにフィオナが力を込めてもそれ以上強くはならない。
どんどん苦しそうに表情を歪めるフィオナに、ローラがたまらず声をかけた。
「フィオナ様、どうかもうおやめください。このままではフィオナ様のお身体がもちません。フィオナ様!」
ローラが手を伸ばしてフィオナを止めようとした時だった。
「うっ……」
かすかにうめいてから、ルシアスがゆっくりと目を開いた。