冷徹外科医の独占愛 ~結婚はいらないはずだったのに~

第1章 結婚しない女

ー またおまえがやったのか!-

ー 違うわよ!やったのは、あなたでしょ!-

遠くから聞こえる罵倒の声。

それは、静かであった夜も繰り返し行われた。

私はそれを、戸の影から何も言わずに見るしかなかった。

「お父さん、お母さん。喧嘩は止めて。」

そんな言葉を吐くのが、精一杯だった。

すると決まって、お母さんが戸を開けて私を抱きしめてくれた。

「ああ、紗季。嫌な思いをさせたわね。」

母は、本当に私の事を可哀想だと思って、抱きしめていたのか。

今となっては定かではない。

ただその時だけは、母も父を怒鳴ったりしないし、父も母に暴力をすることはなかった。

嘘でも、母が抱きしめてくれている瞬間だけが、私の幸せな時間だった。

そして私を寝かしつけると、母は言った。

「紗季がいなかったら、今頃一人になれたのに。」
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