祝福のあとで
悪気のない一言。
ただの感想。
それなのに、
ひかりの胸の奥に、
静かな波が立つ。
——選ばれた人たち。
その言葉が、
勝手に浮かんで、
すぐに消えた。
「確かに」
ひかりは、
笑顔のまま頷く。
「落ち着いた空気を
好まれる方には、
合うと思います」
由里は、
満足そうに息を吐いた。
「やっぱり、好きだな。
ここ」
その言葉は、
誰かを傷つけるためのものじゃない。
ただ、
幸せの途中にいる人の、
素直な声だった。
ひかりは、
説明を続けながら思う。
私は、
この人たちの“これから”を、
形にする側なんだ。
羨ましいわけじゃない。
妬んでいるわけでもない。
ただ、
自分の立ち位置だけが、
少しだけ、
はっきりした。
案内を終えて、
ロビーに戻る。
「今日はありがとうございました」
由里が、
深く頭を下げる。
「また、
改めて予約しますね」
「はい。
お待ちしております」
律も、
静かに礼をしてから言った。
「丁寧に案内していただいて、
助かりました」
「こちらこそ」
二人が並んで歩いていく背中を、
ひかりは見送った。
陽の光の中で、
迷いなく進んでいく背中。
その姿を見ながら、
ひかりは静かに思う。
あの夜に感じた違和感は、
間違っていなかった。
でも、
それは痛みじゃない。
ただ、
自分の立つ場所を、
改めて知っただけ。
ひかりは、
深く息を吸って、
仕事に戻った。
祝福する側として。
そして、
誰かを想う一人の人として。