祝福のあとで
 下見の日から、数日が経っていた。

 仕事に追われて、
 気づけば、直とゆっくり過ごすのも久しぶりだった。

 その日は、休日。

 いつもみたいに、
 Bar Afterで少しだけ飲んでから、
 そのまま、直の家に泊まった。

 特別なことは、何もしていない。

 ただ、
 一緒に帰って、
 一緒に夜を終えただけ。

 ***

 
目を覚ましたとき、
 部屋にはもう、朝というより昼に近い光が満ちていた。

 カーテンの隙間から差し込む白い光が、
 ゆっくりと天井をなぞっている。

 ——遅い。

 そう思ったけれど、
 時間を確かめようという気にはならなかった。

 ひかりは、
 シーツの中で小さく身じろぎをする。

 体が、まだ重たい。

 眠気のせいだけじゃない。
 記憶が、きちんと残っているせいだった。

 昨夜のこと。
 言葉より先に触れた時間。
 朝になっても、終わらなかったこと。

 それを思い出して、
 ひかりは一度、目を閉じる。

シーツに残る、微かな温もり。

 ひかりは、
 ゆっくり瞬きをしてから、
 隣に手を伸ばす。

 もう、いない。

 少しだけ残念で、
 でも、
 それが自然な朝でもあることを思い出す。

 枕元のスマートフォンを手に取ると、
 画面に、通知が一つ。

 ――コンビニ行ってくる。
 ――何か欲しいものあったら連絡して。

 送信時間は、
 五分ほど前。

 ひかりは、
 思わず小さく息を吐いた。

 起こさないように、
 そっと出ていったんだろう。

 そう思うと、
 胸の奥が、少しだけ柔らぐ。

 まだ、
 身体は完全に目覚めきっていない。

 昨夜の名残が、
 どこかに残ったまま。

 ひかりは、
 ベッドの上で身体を起こし、
 シーツをたぐり寄せる。

 服を着る気には、
 まだ、なれなかった。

 このまま、
 少しだけ、
 待っていようと思った。

 直が戻ってくるまで。

 ——そのとき。

 静かな部屋に、
 不意に音が響いた。

 ピンポーン。

 一瞬、
 何の音か分からなくて。

 次の瞬間、
 背中を、
 ぞくりと何かが走った。
< 115 / 137 >

この作品をシェア

pagetop