祝福のあとで
第25章 重ならない距離
数日後。

ひかりは、
いつものように打ち合わせ資料を整えていた。

その日、
受付から一本の内線が入る。

「相沢様と、高瀬様がお見えです」

一瞬だけ、
ペン先が止まる。

——来たんだ。

それが、
驚きより先に浮かんだ言葉だった。

*

「やっぱり、ここにしようか」

由里の声は、
相変わらず明るかった。

ルミエールのロビーで、
彼女はそう言って振り返る。

隣にいる律も、
静かに頷く。

「お待たせしました」

由里が先に振り返り、
その後ろから、律が続いた。

由里の表情がすぐに明るくなる。

「ひかりさん」

「こんにちは」

由里の隣にいた男性が、
不思議そうに二人を見比べる。

由里は、
少し誇らしげに言った。

「この前話したでしょ。
 直くんの彼女さん」

そう言って、
ひかりの方を見る。

「ルミエールのプランナーさん」

律は、
一拍置いてから、
静かに頭を下げた。

「相沢です。
 今日は正式に申し込みで伺いました」

「ありがとうございます。
では、お部屋にご案内します」

名乗る声は、
仕事のそれだった。

由里は、
その様子を見て、
ふっと笑う。

「やっぱり、そうだったんだ」

ひかりが、
少しだけ首を傾けると、

「この前ね、
 ここ見に来たとき、
 なんか“縁がありそう”って思ったの」

軽い調子。

でも、
迷いはなかった。

由里は、
そのまま言った。

「ねえ、ひかりさん。
 もし可能なら」


「私たちの式、
 担当してもらえませんか?」

空気が、
静かに定まる。

律は、
由里の言葉を遮らず、
ただ頷いた。

ひかりは、
その二人を見てから、
ゆっくり息を吸う。

逃げ道も、
断る理由も、
用意できた。

それでも。

「……ありがとうございます」

そう答えてから、
続ける。

「責任を持って、
 担当させていただきます」

由里は、
ぱっと笑った。

「よかった」

その笑顔は、
誰かを試すものでも、
何かを知らないふりをするものでもない。

ただ、
未来を信じている人の顔だった。
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