祝福のあとで
第25章 重ならない距離
数日後。

ひかりは、
いつものように打ち合わせ資料を整えていた。

その日、
受付から一本の内線が入る。

「相沢様と、高瀬様がお見えです」

一瞬だけ、
ペン先が止まる。

——来たんだ。

それが、
驚きより先に浮かんだ言葉だった。



「やっぱり、ここにしようか」

由里の声は、
相変わらず明るかった。

ルミエールのロビーで、
彼女はそう言って振り返る。

隣にいる律も、
静かに頷く。

「お待たせしました」

由里が先に振り返り、
その後ろから、律が続いた。

由里の表情がすぐに明るくなる。

「ひかりさん」

「こんにちは」

由里の隣にいた男性が、
不思議そうに二人を見比べる。

由里は、
少し誇らしげに言った。

「この前話したでしょ。
 直くんの彼女さん」

そう言って、
ひかりの方を見る。

「ルミエールのプランナーさん」

律は、
一拍置いてから、
静かに頭を下げた。

「相沢です。
 今日は正式に申し込みで伺いました」

「ありがとうございます。
では、お部屋にご案内します」

名乗る声は、
仕事のそれだった。

由里は、
その様子を見て、
ふっと笑う。

「やっぱり、そうだったんだ」

ひかりが、
少しだけ首を傾けると、

「この前ね、
 ここ見に来たとき、
 なんか“縁がありそう”って思ったの」

軽い調子。

でも、
迷いはなかった。

由里は、
そのまま言った。

「ねえ、ひかりさん。
 もし可能なら」


「私たちの式、
 担当してもらえませんか?」

空気が、
静かに定まる。

律は、
由里の言葉を遮らず、
ただ頷いた。

ひかりは、
その二人を見てから、
ゆっくり息を吸う。

逃げ道も、
断る理由も、
用意できた。

それでも。

「……ありがとうございます」

そう答えてから、
続ける。

「責任を持って、
 担当させていただきます」

由里は、
ぱっと笑った。

「よかった」

その笑顔は、
誰かを試すものでも、
何かを知らないふりをするものでもない。

ただ、
未来を信じている人の顔だった。
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