祝福のあとで
窓の外の木々が、
 少しずつ色を変え始めた頃。

 本格的に、
 律と由里の打ち合わせが始まった。

 最初のうちは、
 二人揃って来ることが多かった。

 予定を合わせて、
 同じ資料を覗き込みながら、
 必要なことを一つずつ確認していく。

 ひかりは、
 その様子を何度も見てきた。

 けれど、
 ある時から、
 由里が一人で来るようになった。

「律、今ちょっと立て込んでて」

 そう言って、
 由里は笑う。

 責めるでもなく、
 困ったふうでもなく。

「事務所の移転もあるし、
 今が一番大事な時期だから」

 理解している、という言い方だった。

 それは本心だと思う。
 由里は、そういう人だ。

 でも。

 資料を広げながら、
 ペンを持つ指先が、
 ほんの少しだけ止まる。

「……だから、
 ここからは私が詰めておきますね」

 そのとき浮かべた笑顔は、
 前よりも少しだけ、軽かった。

 ひかりは、
 何も言わずに頷く。

 仕事として、
 それ以上踏み込まない。

 結婚式への熱量が、
 少しずつずれていく瞬間を、
 ひかりは何度も見てきた。

 どちらが悪いわけでもない。
 ただ、タイミングが合わなかっただけ。

 それが積み重なって、
 いつの間にか、
 戻れない距離になることも。

 ——分かっているからこそ。

 ひかりは、
 由里に向かって、
 当たり障りのない言葉しか選ばなかった。

「進行は、
 こちらで調整しておきますね」

「助かります」

 由里は、
 その言葉に少しだけ救われたように、
 息を吐いた。

「ひかりさんが担当で、よかった」

 その一言は、
 重くも軽くもない。

 ただの信頼だった。

 ひかりは微笑んで、
 資料を閉じる。

 それ以上、
 何も言えなかった。

 言ってしまえば、
 境界線を越えてしまう気がしたから。

 その日の打ち合わせは、
 滞りなく終わった。

 由里は、
 いつもと同じように礼を言って、
 ロビーを出ていった。

 ひかりは、
 その背中を見送りながら思う。

 ——私は、
 この人の未来をつくる側で、
 寄り添う側ではない。

 それが、
 少しだけ、
 苦しかった。
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