祝福のあとで

家に向かう途中、
 ひかりは歩きながら、
 さっきの光景を思い返していた。

 由里に向けた直の声。
 言葉を選ばず、
 ただ受け止めるみたいな眼差し。

 ——ああいう顔。

 今まで、
 あまり意識したことはなかった。

 仕事中の直。
 恋人としての直。

 どちらとも違う、
 もう一つの表情。

 それが、
 なぜか胸に残っていた。

 気になる、というほど
 大きな感情じゃない。

 比べているわけでもない。
 疑っているわけでもない。

 ただ。

 これから先、
 由里と話す直を見るたびに、
 今日のことを思い出してしまいそうだ。

 そんな予感だけが、
 静かに残った。

 ひかりは、
 それを無理に振り払わなかった。

 今はまだ、
 理由をつけなくていい。

 ただ、
 胸の奥に生まれた小さな違和感を、
 「なかったこと」にしないでおこうと思った。
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