祝福のあとで
第26章 選ばれる前に
ある日の打ち合わせの終わり際、
由里がふっと言った。
「ねえ、ひかりさん」
「はい?」
「最初の頃より、
なんだか距離が近くなった気がして」
照れたように笑う。
「こういうの、嬉しいなって思って」
ひかりは、
少しだけ微笑んだ。
「そう言っていただけると、
私も嬉しいです」
由里は、
それに満足したみたいに頷いてから、
続ける。
「今は立場的に難しいかもしれないけど」
「式が無事に終わったら、
二人でご飯でも行かない?」
女同士、
ゆっくり。
その言い方が、
未来の話だった。
「ぜひ」
ひかりは、
即答した。
その自然さに、
由里は安心したように笑う。
「よかった」
それから、
何気ない調子で言う。
「そういえば」
由里は、
資料をまとめながら続けた。
「前に直くんとも、
こうやって打ち合わせしたなって、
ふと思い出しちゃって」
ひかりの指が、
一瞬だけ止まる。
「お店オープンするとき、
内装とかインテリアで悩んでて」
「知人に紹介されて、
それで関わるようになったの」
特別な思い出じゃない。
ただの過去。
そういう話し方だった。
「直くん、
あの時もあんまり多くは話さなかったけど」
由里は、
少し懐かしそうに笑う。
「でも、
ちゃんと聞いてる人だなって思った」
ひかりは、
相槌を打ちながら、
胸の奥に落ちる感覚を、
静かに受け止めていた。
知らなかった話。
知らなくて、
当然の時間。
それなのに、
直の名前が出た瞬間、
空気がほんの少しだけ変わった気がした。
——まただ。
最近、
直の名前が出るたびに、
こうして意識してしまう。
由里は、
悪気なんて一切ない。
ただ、
過去を話しただけ。
ひかりは、
それを分かっている。
だから、
顔には出さない。
ただ、
心のどこかに、
小さな引っかかりが残る。
この感覚に、
まだ名前はつけない。
でも、
今日を境に、
直が誰かと向き合うときの表情を、
ひかりは、
前よりも注意深く見るようになってしまう。
そんな予感だけが、
静かに胸に残った。
由里がふっと言った。
「ねえ、ひかりさん」
「はい?」
「最初の頃より、
なんだか距離が近くなった気がして」
照れたように笑う。
「こういうの、嬉しいなって思って」
ひかりは、
少しだけ微笑んだ。
「そう言っていただけると、
私も嬉しいです」
由里は、
それに満足したみたいに頷いてから、
続ける。
「今は立場的に難しいかもしれないけど」
「式が無事に終わったら、
二人でご飯でも行かない?」
女同士、
ゆっくり。
その言い方が、
未来の話だった。
「ぜひ」
ひかりは、
即答した。
その自然さに、
由里は安心したように笑う。
「よかった」
それから、
何気ない調子で言う。
「そういえば」
由里は、
資料をまとめながら続けた。
「前に直くんとも、
こうやって打ち合わせしたなって、
ふと思い出しちゃって」
ひかりの指が、
一瞬だけ止まる。
「お店オープンするとき、
内装とかインテリアで悩んでて」
「知人に紹介されて、
それで関わるようになったの」
特別な思い出じゃない。
ただの過去。
そういう話し方だった。
「直くん、
あの時もあんまり多くは話さなかったけど」
由里は、
少し懐かしそうに笑う。
「でも、
ちゃんと聞いてる人だなって思った」
ひかりは、
相槌を打ちながら、
胸の奥に落ちる感覚を、
静かに受け止めていた。
知らなかった話。
知らなくて、
当然の時間。
それなのに、
直の名前が出た瞬間、
空気がほんの少しだけ変わった気がした。
——まただ。
最近、
直の名前が出るたびに、
こうして意識してしまう。
由里は、
悪気なんて一切ない。
ただ、
過去を話しただけ。
ひかりは、
それを分かっている。
だから、
顔には出さない。
ただ、
心のどこかに、
小さな引っかかりが残る。
この感覚に、
まだ名前はつけない。
でも、
今日を境に、
直が誰かと向き合うときの表情を、
ひかりは、
前よりも注意深く見るようになってしまう。
そんな予感だけが、
静かに胸に残った。