祝福のあとで
それから、
ひかりは少しずつ、距離を置くようになった。
露骨に避けたわけじゃない。
連絡は返す。
会えば笑う。
仕事の話も、必要なことはちゃんとする。
ただ——
自分から、踏み込まなくなった。
以前なら、
「今日はどうだった?」と聞いていたことを、
聞かなくなった。
直の家に行く頻度も、
自然と減った。
「今日は、遅くなりそうで」
「明日、朝早いから」
どれも、嘘じゃない。
でも、
本当の理由は別のところにあった。
——これ以上、近づいたら。
ひかりは、
自分が壊れてしまう気がしていた。
直が由里の名前を出すときの、
あの一瞬の間。
誰かの話をするときに見せる、
バーでの仕事の顔。
落ち着いていて、
距離を保って、
感情を預からないあの表情。
あれを見るたびに、
ひかりは思ってしまう。
——私も、同じなんだ。
好きだと言われた記憶は、
曖昧なまま。
はっきりした言葉は、
一度ももらっていない。
それなのに、
恋人みたいな時間だけは、
確かにあった。
だから。
自分から一歩引けば、
きっと元に戻れる。
直にとって、
ちょうどいい距離に。
ひかりは、
そう信じることにした。
ある夜、
Bar Afterで一杯だけ飲んで帰ろうとしたとき。
「今日は、帰る?」
直が、何気なく聞いた。
ひかりは、
一瞬だけ迷ってから、答えた。
「うん。今日は、このまま」
直は、
それ以上何も言わなかった。
引き止めもしない。
理由も聞かない。
その優しさが、
ひかりには少しだけ苦しかった。
店を出ると、
夜の空気が冷たい。
歩きながら、
ひかりは自分に言い聞かせる。
——これは、間違ってない。
選ばれる前に、
自分で選んだだけ。
それでも。
背中に残る視線の気配を、
振り返らずにはいられなかった。
ひかりは少しずつ、距離を置くようになった。
露骨に避けたわけじゃない。
連絡は返す。
会えば笑う。
仕事の話も、必要なことはちゃんとする。
ただ——
自分から、踏み込まなくなった。
以前なら、
「今日はどうだった?」と聞いていたことを、
聞かなくなった。
直の家に行く頻度も、
自然と減った。
「今日は、遅くなりそうで」
「明日、朝早いから」
どれも、嘘じゃない。
でも、
本当の理由は別のところにあった。
——これ以上、近づいたら。
ひかりは、
自分が壊れてしまう気がしていた。
直が由里の名前を出すときの、
あの一瞬の間。
誰かの話をするときに見せる、
バーでの仕事の顔。
落ち着いていて、
距離を保って、
感情を預からないあの表情。
あれを見るたびに、
ひかりは思ってしまう。
——私も、同じなんだ。
好きだと言われた記憶は、
曖昧なまま。
はっきりした言葉は、
一度ももらっていない。
それなのに、
恋人みたいな時間だけは、
確かにあった。
だから。
自分から一歩引けば、
きっと元に戻れる。
直にとって、
ちょうどいい距離に。
ひかりは、
そう信じることにした。
ある夜、
Bar Afterで一杯だけ飲んで帰ろうとしたとき。
「今日は、帰る?」
直が、何気なく聞いた。
ひかりは、
一瞬だけ迷ってから、答えた。
「うん。今日は、このまま」
直は、
それ以上何も言わなかった。
引き止めもしない。
理由も聞かない。
その優しさが、
ひかりには少しだけ苦しかった。
店を出ると、
夜の空気が冷たい。
歩きながら、
ひかりは自分に言い聞かせる。
——これは、間違ってない。
選ばれる前に、
自分で選んだだけ。
それでも。
背中に残る視線の気配を、
振り返らずにはいられなかった。