祝福のあとで
披露宴は、無事に幕を閉じた。

拍手も、笑顔も、
最後の挨拶も、すべて予定通り。

スタッフ同士の短い確認と、
新郎新婦へのねぎらい。

「ありがとうございました」
「本当に、素敵な式でしたね」

その言葉を何度も交わしながら、
ひかりは、ようやく一つの区切りを実感していた。

——終わった。

この日のために積み重ねてきた時間も、
今日という一日も。

本当は、
達成感だけを感じているはずだった。

それなのに。

会場を見渡すたび、
無意識に探してしまう影がある。

親族席のあたり。
人の流れの中に紛れる、黒いスーツ。

直。

話したわけでも、
視線が合ったわけでもない。

ただ、そこにいた。

それだけなのに、
胸の奥が、静かにざわつく。

——もう、仕事は終わったのに。

ひかりは、
一度だけ深く息を吸ってから、
人の流れからそっと外れた。

誰かに声をかけられる前に。
理由を聞かれる前に。

少しだけ、
一人になりたかった。

廊下を進むにつれて、
喧騒が遠ざかっていく。

気づけば、
足は自然と、ある場所へ向かっていた。

チャペル。

ついさっきまで、
誓いが交わされていた場所。

今は誰もいなくて、
照明も落とされている。

静かすぎるほど、静かだった。

ひかりは、
一番後ろのベンチに腰を下ろす。

背中を預けて、
ゆっくり息を吐いた。

——終わったんだ。

由里と律の結婚式は、
ちゃんと、幸せな形で。

祝福する側として、
最後までやり切った。

それなのに。

胸の奥に残るのは、
達成感だけじゃない。

海外転勤の話が、
静かに、現実として浮かび上がる。

この式が終わったら、
返事をしよう。

そう決めていた。

まだ、答えは出ていない。
でも。

“考えないまま先送りにする”ことだけは、
もうできないところまで来ている。

ひかりは、
祭壇を見つめたまま、目を閉じた。

ここは、
誰かが選び合った場所。

じゃあ、私は。

——私は、
どこへ向かうんだろう。
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