祝福のあとで
一度だけ視線を落としてから、
ゆっくり顔を上げた。
「……ひかり」
さっきよりも、
少しだけ近い声。
でも、
距離は詰めない。
「俺が」
「由里さんのことを、
まだ好きだと思ってる?」
断定じゃない。
問い詰めでもない。
ただ、
確かめるための言葉。
ひかりの呼吸が、
わずかに止まる。
すぐに答えなかった。
その沈黙が、
答えの一部みたいだった。
「……そういう顔、してますから」
ようやく出た声は、
少しだけ苦笑いを含んでいた。
「直さんが、
誰かの話をするとき」
「ちゃんと距離を取って、
ちゃんと聞いて」
「それで、
余計なことは言わないとき」
ひかりは、
自分でも驚くほど、
冷静に続ける。
「それ、
私が初めて見た顔じゃないです」
直は、
何も言わなかった。
否定もしない。
でも、
肯定もしない。
ひかりは、
それをどう受け取っていいか分からなくて、
小さく息を吐いた。
「……だから」
声が、
少しだけ弱くなる。
「私がここにいるのは、
違うのかなって」
「直さんが、
本当に行きたい場所は、
別にあるんじゃないかなって」
それ以上は言わなかった。
“好きだって言われたことがない”とか、
“選ばれた気がしなかった”とか。
全部、
胸の奥にしまったまま。
直は、
その言葉を遮らずに聞いてから、
静かに言った。
「……ひかり」
今度は、
迷いのない声。
「俺が、
誰かを好きだった過去はある」
ひかりの肩が、
わずかに揺れる。
「でも」
直は、
一度だけ言葉を切った。
「それは、
今じゃない」
断言でも、
説得でもない。
事実を置くみたいな言い方。
「それに」
直は、
ひかりをまっすぐ見る。
「俺が、
今、誰と向き合ってるか」
「それを、
勝手に決めて、
離れようとするのは」
一拍。
「……ずるい」
責める響きはなかった。
ただ、
寂しさが、
ほんの少し滲んだ声だった。
ひかりは、
何も返せなかった。
チャペルの中は静かで、
外の光だけが、
床に淡く落ちている。
直は、
それ以上は踏み込まない。
でも、
目だけは逸らさなかった。
「今は、
全部話さなくていい」
「でも、
俺の気持ちまで、
ひかりが決めないで」
その言葉は、
引き止めでも、
命令でもなく。
“一緒に立つ場所”を、
まだ手放していない人の声だった。
ひかりの胸の奥で、
何かが、
静かにほどけ始める。
——まだ、
終わっていない。
その事実だけが、
チャペルの空気に、
そっと残っていた。
ゆっくり顔を上げた。
「……ひかり」
さっきよりも、
少しだけ近い声。
でも、
距離は詰めない。
「俺が」
「由里さんのことを、
まだ好きだと思ってる?」
断定じゃない。
問い詰めでもない。
ただ、
確かめるための言葉。
ひかりの呼吸が、
わずかに止まる。
すぐに答えなかった。
その沈黙が、
答えの一部みたいだった。
「……そういう顔、してますから」
ようやく出た声は、
少しだけ苦笑いを含んでいた。
「直さんが、
誰かの話をするとき」
「ちゃんと距離を取って、
ちゃんと聞いて」
「それで、
余計なことは言わないとき」
ひかりは、
自分でも驚くほど、
冷静に続ける。
「それ、
私が初めて見た顔じゃないです」
直は、
何も言わなかった。
否定もしない。
でも、
肯定もしない。
ひかりは、
それをどう受け取っていいか分からなくて、
小さく息を吐いた。
「……だから」
声が、
少しだけ弱くなる。
「私がここにいるのは、
違うのかなって」
「直さんが、
本当に行きたい場所は、
別にあるんじゃないかなって」
それ以上は言わなかった。
“好きだって言われたことがない”とか、
“選ばれた気がしなかった”とか。
全部、
胸の奥にしまったまま。
直は、
その言葉を遮らずに聞いてから、
静かに言った。
「……ひかり」
今度は、
迷いのない声。
「俺が、
誰かを好きだった過去はある」
ひかりの肩が、
わずかに揺れる。
「でも」
直は、
一度だけ言葉を切った。
「それは、
今じゃない」
断言でも、
説得でもない。
事実を置くみたいな言い方。
「それに」
直は、
ひかりをまっすぐ見る。
「俺が、
今、誰と向き合ってるか」
「それを、
勝手に決めて、
離れようとするのは」
一拍。
「……ずるい」
責める響きはなかった。
ただ、
寂しさが、
ほんの少し滲んだ声だった。
ひかりは、
何も返せなかった。
チャペルの中は静かで、
外の光だけが、
床に淡く落ちている。
直は、
それ以上は踏み込まない。
でも、
目だけは逸らさなかった。
「今は、
全部話さなくていい」
「でも、
俺の気持ちまで、
ひかりが決めないで」
その言葉は、
引き止めでも、
命令でもなく。
“一緒に立つ場所”を、
まだ手放していない人の声だった。
ひかりの胸の奥で、
何かが、
静かにほどけ始める。
——まだ、
終わっていない。
その事実だけが、
チャペルの空気に、
そっと残っていた。