祝福のあとで
直は、
 しばらく黙ってから、
 チャペルの椅子に視線を落とした。

 話すかどうか、
 迷っている人の間。

「……由里さんとは」

 名前を出すとき、
 声の温度は変わらない。

「三年くらい前に、
 仕事で知り合った」

 ひかりは、
 何も言わずに聞く。

 遮らない。
 先を急がせない。

「店を出すとき、
 内装で悩んでて」

「知り合いに紹介されたのが、
 由里さんだった」

 ただの経緯。
 飾らない言い方。

「何度か打ち合わせして、
 同い年だって分かって」

「仕事の話以外も、
 少しだけするようになった」

 “少しだけ”。

 その言葉に、
 ひかりは引っかかる。

 直は、
 それに気づかないまま続ける。


「バーが完成したら、
 飯でも誘おうと思ってた」

 ひかりの指先が、
 わずかに強張る。

 直は、
 そこで一度、
 言葉を止めた。

「でも」

 短く。

「その前に、
 由里さんに恋人がいるって知った」

「それが、
 律だった」

 事実を並べる声。

 悔しさも、
 後悔も、
 過剰には混ざっていない。

「告白もしてないし、
 気持ちを伝える場所もなかった」

 ひかりは、
 胸の奥が、
 静かに沈むのを感じた。

 それは、
 嫉妬じゃない。

 後悔でもない。

 “時間”の話だった。

「だから」

 直は、
 ひかりを見る。

 初めて、
 少しだけ視線が揺れた。

「好きだった過去はある」

「でも、
 それは終わってる」
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