祝福のあとで

ひかりは、
 すぐには答えられなかった。

 戻りたい。

 その気持ちは、
 もう誤魔化せなかった。

 直の言葉が、
 胸の奥に、
 まっすぐ届いている。

 それなのに。

 ひかりは、
 小さく息を吐いてから言った。

「……私も」

 一度、言葉を切る。

「直さんのこと、
 今も、好きです」

 それは、
 別れた日の続きみたいな告白だった。

 でも、
 そこで終わらなかった。

「だからこそ」

 視線を落としたまま、
 続ける。

「簡単に、
 戻りたいって言えなくて」

 直は、
 何も言わずに聞いている。

 ひかりは、
 チャペルの床に落ちる光を見つめながら、
 言葉を探した。

「海外転勤の話」

 直の呼吸が、
 ほんの少しだけ変わる。

 でも、
 口は挟まない。

「まだ、
 正式に決めたわけじゃないです」

「返事も、
 式が終わってからでいいって言われてる」

 そこで、
 ようやく直を見る。

「でも」

 声が、
 少しだけ揺れた。

「行ったら、
 簡単には戻れない」

「仕事としても、
 人生としても」

 それは、
 未来の話なのに、
 もう現実だった。

「直さんと、
 やり直したい気持ちはある」

 はっきり、
 そう言った。

「でも」

 もう一度。

「どちらかを選んだら、
 どちらかを、
 失う気がして」

 ひかりは、
 拳を軽く握る。

 あの夜。
 身を引いた理由。

 あれは、
 間違いじゃなかった。

 ただ、
 怖かっただけだ。

「私は」

 ひかりは、
 正直に言った。

「直さんの未来を、
 奪うみたいになるのも」

「自分の未来を、
 諦めるみたいになるのも」

 どちらも、
 できなくて」

 沈黙が落ちる。

 でも、
 逃げる沈黙じゃない。

 直は、
 ゆっくりと息を吸ってから、
 言った。
< 150 / 154 >

この作品をシェア

pagetop