祝福のあとで
「……奪われる未来なんて、
 思ってない」

 ひかりの胸が、
 わずかに揺れる。

 直は、
 感情を強く出すことはしない。

 でも、
 その声には、
 迷いがなかった。

「ひかりが行くことで、
 俺の何かがなくなるとは、
 思わない」

 ゆっくり、
 一つずつ言葉を置く。

「仕事も、
 人生も」

「ひかりが選んだなら、
 それは、
 ちゃんと意味のある選択だと思う」

 ひかりは、
 思わず首を振りかけて、
 やめた。

 否定されたくて言ったわけじゃない。

 でも、
 こんなふうに受け取られるとは、
 思っていなかった。

「ただ」

 直は続ける。

「一人で決めなくていい」

 その一言が、
 ひかりの胸に深く落ちる。

「俺のことを理由に、
 やめる必要もないし」

「俺のことを理由に、
 無理に行く必要もない」

 直は、
 一歩だけ近づいた。

 触れない距離のまま。

「一緒に考えたい」

 それは、
 答えを急がせない言葉だった。

「どうしたら、
 ひかりが後悔しないか」

「どうしたら、
 俺たちが、
 ちゃんと納得できるか」

 “俺たち”。

 その言葉が、
 ひかりの中で、
 ゆっくり形になる。

 戻りたい。

 でも、
 戻るだけじゃ足りない。

ひかりは、
 唇を噛んでから、
 正直に言った。

「……やり直したい」

 ひかりは、
 小さく言った。

「海外転勤のこと
 まだ答え出さなくていいかな?」

 直は、
 ほんの少しだけ口角を上げる。

 初めて見る、
 柔らかい表情。

「一緒に考えよう」

 チャペルの静けさの中で、
 その言葉は、
 祈りみたいに残った。

 選ぶ前に、
 手を取り合う。

 それは、
 今までの二人にはなかった、
 新しい始まりだった。
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