祝福のあとで
 しばらく、
 二人とも言葉を発さなかった。

 チャペルの中は、
 人の気配がすっかり引いて、
 音という音が、
 やさしく吸い込まれていく。

 直は、
 ひかりのすぐ隣に立ちながら、
 前を見たまま言った。

「約束しよう」

 問いかけじゃない。
 でも、
 決めつけでもない声。

 ひかりは、
 その言葉を待つように、
 小さく頷いた。

「答えを急がないこと」

 直は続ける。

「どっちかが、
 一人で決めないこと」

「ちゃんと、
 話すこと」

 ひかりは、
 胸の奥が、
 ゆっくりほどけていくのを感じた。

 それは、
 未来を保証する約束じゃない。

 でも、
 逃げないための約束だった。

「……はい」

 ひかりは、
 声を落として答える。

 直は、
 その返事を聞いて、
 ようやくこちらを見る。

「それと」

 一拍。

「俺は、
 待てる」

 重くもなく、
 軽くもない言い方。

「ひかりが、
 考える時間を取るなら」

「その間、
 俺が消えることはない」

 ひかりは、
 思わず笑いそうになって、
 ぐっと堪えた。

 この人は、
 引き止めない。

 でも、
 離れもしない。

「……ずるいですね」

 そう言うと、
 直はほんの少しだけ笑った。

「よく言われます」

 チャペルの奥で、
 誰かの足音が響く。

 現実が、
 少しずつ戻ってくる合図。

 ひかりは、
 一歩だけ後ろに下がってから言った。

「じゃあ」

「答えは、
 まだ出さないでおきます」

 直は、
 それを否定しなかった。

「うん」

 ただ、
 そう答える。

 二人の間に、
 触れない距離が戻る。

 でも、
 もう、
 遠くはなかった。

 ひかりは、
 扉の方へ向かいながら思う。

 選ばれる前に、
 離れようとしていた自分。

 でも今は、
 選ぶことから、
 逃げない場所に立っている。

 夏が終わったばかりの空気が、
 チャペルの外に流れている。

 答えは、
 まだない。

 でも、
 約束だけは、
 確かにそこにあった。

 ——続きは、
 まだ、
 これからだ。
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