祝福のあとで
目を覚ましたとき、
 ひかりは一瞬、身体を動かせなかった。

 理由はすぐに分かる。

 ——過去一、だった。

 思い出そうとしなくても、
 身体のあちこちに残る重さと熱で十分だった。

 隣を見ると、
 直はもう起きていて、
 ベッドの端に腰掛けたまま、シャツを羽織っている。

 静かにスマートフォンを確認する横顔。

 昨夜のことが嘘みたいに、落ち着いている。

「……おはよう」

 ひかりの声に、
 直が振り返った。

 一瞬だけ、
 少し気まずそうに視線を逸らす。

「……起こした?」

「ううん」

 ひかりは、
 布団を胸元まで引き上げたまま言う。

「でも……」

 言葉に詰まる。

 直は、
 その間を察したみたいに、小さく笑った。

「ごめん」

 軽い調子なのに、
 どこか本気だった。

「昨日は……ちょっと、加減忘れた」

「ちょっと?」

 ひかりが眉を上げると、
 直は誤魔化すように肩をすくめる。

「だいぶ、か」

 そのやり取りだけで、
 昨夜の温度が、ゆっくり戻ってくる。

 ひかりは、
 天井を見つめたまま、ぽつりと言った。

「今日、午後からにしてもらった」

 直が、少し驚いて見る。

「仕事」

「うん。見送る時間、欲しかったから」

 直は、
 一拍置いてから、ベッドに戻ってきた。

 ひかりの額に、
 軽く唇が触れる。

 朝の、静かなキス。

「……ありがとう」

 それは、
 昨日の夜とは違う声だった。

 ひかりは、
 そのまま目を閉じる。

 身体はまだ重いのに、
 気持ちは、不思議なくらい落ち着いている。

 ——ズレてた時間も、
 確かめ合った夜も、
 全部ここに繋がっている。

 直が出かけるまで、
 まだ少し時間がある。

 ひかりは、
 その事実に、静かに安堵した。

 今日は、
 ちゃんと、朝まで一緒だった。
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