祝福のあとで
「……こういう店、よく来るんですか」
ひかりの問いに、
直はグラスを手に取ったまま、少しだけ考える。
「仕事終わりに、たまに」
「一人で?」
「ええ。静かなので」
理由はそれだけ。
でも、どこか納得できる答えだった。
「Bar Afterとは、雰囲気が違いますね」
「ここは、少しだけ余白があります」
「余白?」
「話さなくてもいい時間が、長い」
それを聞いて、
ひかりは小さく頷いた。
「……似てますね」
「何がですか」
「披露宴のあとに残る時間と」
直は、少しだけ目を細める。
「祝福が終わったあと、
急に静かになるあの感じです」
「ええ
その時間が、好きな人もいます」
グラスが、軽く触れる音。
二人の間に、
沈黙が落ちる。
でも、居心地は悪くない。
ひかりは、軽食に手を伸ばしながら、ふと思う。
今日は、
ずっと誰かのために動いていた。
判断して、整えて、守って。
それが、
当たり前の一日だった。
なのに今は、
「……今日は、助かりました」
気づいたら、そう口にしていた。
直は、こちらを見ずに答える。
「仕事ですから」
Bar Afterで、何度も聞いた言葉。
でも、今日は少しだけ違う。
「それでも、頼めて、よかったです」
言い切ったあと、
ひかりはグラスに視線を落とす。
直は、すぐには返さない。
ただ、氷が溶ける音がする。
「……そう言ってもらえるなら」
低い声。
「来た意味は、ありました」
その言い方が、
“客”に向けたものじゃない気がして、
胸の奥が、少しだけ揺れた。