祝福のあとで
第11章 答えの手前で
翌朝、
 ひかりはいつも通り、チャペル・ド・ルミエールにいた。

 進行表を確認し、
 メールを返し、
 次の打ち合わせに向かう。

 披露宴が終わった翌日の式場は、
 驚くほど、何事もなかったように動いている。

 昨日の緊張も、
 静けさも、
 すでに片づけられてしまったみたいに。

 それでも。

 ふとした瞬間に、
 昨夜の光景がよみがえる。

 淡い色のカクテル。
 氷の音。
 名前を呼んだときの、わずかな間。

 ——名前のない一杯。

 ひかりは、無意識に息を整える。

 仕事に戻るだけだ。
 そう、自分に言い聞かせながら。

 昼過ぎ、
 スマートフォンが短く震えた。

 画面に表示された名前を見て、
 ひかりは一瞬だけ指を止める。

 ——高橋。

 業務連絡だろう。
 そう思って、通話に出た。

「神崎です」

『昨日は、お疲れさまでした』

 あきの声は、
 いつも通り落ち着いている。

「こちらこそ。無事に終わってよかったです」

『本当に。判断、助かりました』

 仕事の言葉。

 それだけで、会話は十分成り立つ。

 一拍置いてから、
 あきが続けた。

『せっかくですし』

『今回の件、
 軽く打ち上げでもどうですか』

 言い方は、あくまで自然だった。

 仕事の延長。
 労いのひとつ。

 断る理由は、特にない。

「……打ち上げ、ですか」

『ええ。
 時間のあるときで構いません』

 ひかりは、少しだけ考える。

 昨日の夜の静けさが、
 胸の奥をかすめた。

 でも、これは仕事だ。

「わかりました」

 そう答える声は、
 思っていたより落ち着いていた。

『じゃあ、また連絡します』

 通話は、それだけで切れた。

 スマートフォンを伏せ、
 ひかりは一度だけ深く息を吸う。

 正しい流れだと思った。

 仕事のあとに、
 仕事の話をする。

 それなのに。

 昨夜の余韻が、
 まだ、消えていないことに気づいてしまう。
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