祝福のあとで
気づけば、
店内にいた客は、
いつの間にか帰っていた。
カウンターの向こう側も、
照明が一段落とされている。
残っているのは、
グラスの音と、
低く流れるジャズだけ。
直は、
最後の客のグラスを片づけてから、
カウンターに戻ってきた。
「……静かになりましたね」
ひかりは、
周囲を見渡してから、
小さく頷く。
「はい」
二人きりになったからといって、
空気が変わるわけじゃない。
話題が変わるわけでも、
距離が縮まるわけでもない。
ただ、
沈黙が、
少しだけ長くなった。
直は、
グラスを拭く手を止めて、
ひかりを見る。
「最近、
あまり来ませんでしたね」
責めるでもなく、
探るでもなく。
事実を、
そのまま置いただけの声。
ひかりは、
一瞬だけ言葉を探してから答える。
「……忙しくて」
「そうですよね」
否定もしない。
「無理に来なくていいとは、
思ってます」
少しだけ、
間を置いてから。
「でも」
視線を逸らさずに、
続けた。
「来てくれると、
少し、安心します」
それだけ。
告白でもなく、
期待でもない。
ただ、
本音の端だけ。
ひかりは、
すぐに返事をしなかった。
グラスを持つ指に、
ほんの少しだけ力が入る。
胸の奥が、
静かに波打つ。
この人は、
答えを迫らない。
それなのに、
逃げ道も、
用意しすぎない。
ひかりは、
小さく息を吸った。
「……私も」
言いかけて、
言葉を止める。
今は、
まだいい。
それでも、
この沈黙は、
嫌じゃなかった。
店内にいた客は、
いつの間にか帰っていた。
カウンターの向こう側も、
照明が一段落とされている。
残っているのは、
グラスの音と、
低く流れるジャズだけ。
直は、
最後の客のグラスを片づけてから、
カウンターに戻ってきた。
「……静かになりましたね」
ひかりは、
周囲を見渡してから、
小さく頷く。
「はい」
二人きりになったからといって、
空気が変わるわけじゃない。
話題が変わるわけでも、
距離が縮まるわけでもない。
ただ、
沈黙が、
少しだけ長くなった。
直は、
グラスを拭く手を止めて、
ひかりを見る。
「最近、
あまり来ませんでしたね」
責めるでもなく、
探るでもなく。
事実を、
そのまま置いただけの声。
ひかりは、
一瞬だけ言葉を探してから答える。
「……忙しくて」
「そうですよね」
否定もしない。
「無理に来なくていいとは、
思ってます」
少しだけ、
間を置いてから。
「でも」
視線を逸らさずに、
続けた。
「来てくれると、
少し、安心します」
それだけ。
告白でもなく、
期待でもない。
ただ、
本音の端だけ。
ひかりは、
すぐに返事をしなかった。
グラスを持つ指に、
ほんの少しだけ力が入る。
胸の奥が、
静かに波打つ。
この人は、
答えを迫らない。
それなのに、
逃げ道も、
用意しすぎない。
ひかりは、
小さく息を吸った。
「……私も」
言いかけて、
言葉を止める。
今は、
まだいい。
それでも、
この沈黙は、
嫌じゃなかった。