祝福のあとで
第18章 交わる線
 交際は、順調だった。

 連絡は、無理のない頻度で続いている。
 会えない日が続いても、不安になることはなかった。

 直は、変わらず多くを語らない。
 でも、必要なところだけ、きちんと一緒にいる。

 ひかりもまた、
 “恋人だから”と何かを期待しすぎることはなかった。

 その距離感が、心地よかった。

 ——そんな日常に、
 久しぶりに仕事の匂いが混じったのは、
 3月の予定を確認していたときだった。

 ジューンブライドに向けた、
 春開催の大型ブライダルフェア。

 ひかりの担当は、
 披露宴会場と併設バーを使った、体験型の演出だった。

 新郎新婦をイメージした、
 オリジナルカクテルを提供するプラン。

 “結婚式の一日を、味でも記憶に残す”。

 企画としては、悪くない。

 問題は、そこにあった。

 併設バーのスタッフが、
 ちょうどその日、
 フレアの大会と重なっていて、全員出られない。

 演出そのものを変えることも考えた。
 けれど、上司からは、
 「前にお願いしたことがあるなら、外部スタッフに頼むのも一つだ」と
 現実的な助言が返ってきた。

 ひかりは、
 進行表を見つめながら、
 自然と一人の顔を思い浮かべていた。

 ——直。

 仕事として信頼できて、
 場の空気を壊さない。

 なにより、
 “演出しすぎない”人。

 ひかりは、スマートフォンを手に取る。

 これは、仕事の依頼だ。

 そう自分に言い聞かせてから、
 メッセージを打ち始めた。
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