Toxic・Romance
「これで、よし」

 完成された会議室のレイアウトに、ひとり満足する。私が会議に出ることは無いけれど、参加する人が少しでも気持ちよく過ごしてくれると嬉しい。

 それにしても、もしもあの企画のひとがここへ現れたらきっと私のメンタルが死ぬんだろうな〜……。

 配慮を知らないと言うか、人の気を慮れない他人との共同作業がどれほど気疲れするか、私はあの人によって十分すぎるほど叩き込まれている。

「(うん、帰りたい……)」

 切実な呟きを胸の底に沈めつつ、資料の最後の一束を抱え直した瞬間。ドアが静かに開いて、誰かが入ってくる気配がした。

 足音が一つ、会議室の床に落ちる。その一歩が、なぜか喉の奥をきゅっと狭めた。

 真横をとおりすぎたのは、俯いたままのその人の横顔。そこに落ちた照明の白さが、まるでガラス越しの光のようで、触れたらひとつずつ砕けてしまいそうで、気づけば息を潜めていた。

 ほんの一秒。けれど、永遠に近い一秒だった。

 息を吸うのも、吐くのも忘れたみたい。

 “綺麗”という言葉では追いつかない。

 もっと近くて、もっと衝撃的で、もっと個人的な感情。

 私の世界には存在しなかった、未知、そのもの。男とか女とか、そういう分類がいっさい意味を持たない。ただ、そこに座っているというだけで、空気の色が変わってしまうような人。
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