Toxic・Romance

 執筆アプリを開く。物語の続きは今はまだ私だけの宝物。溜め込んだ好きをより良い形で誰かに届けるために、美味しく熟すの。

「ご飯よりも、あの人から栄養補給したい……」

 デスクに頬をぴたりとくっつけたまま、ポツリと零した。食欲の代わりに欲したのは興味から派生したもの。

 衝動のまま私は席を立った。足は何かに導かれるようにエレベーターへと向かうと、共用フロアの階を押した。

 わたしは自分の内側に孕むこの欲望を、手なずけることが出来ないらしい。

 やがてフロアの端にある喫煙所を見つけた。私の人生において全く不要で、絶対に利用しない場所。その上不埒な理由でこの場所に訪れたわけだ。入室に躊躇いながらも、コンコンと一応ノックして、そろりと入る。

 途端に鼻を突くタバコの匂いに、喉が拒絶反応を起こす。けれど、それを気合で飲み込んだ。

 それから今、人生で初めて「メンソール」と名のつく箱を手にしている。もちろん吸い方なんて知らない。少し前コンビニの店員さんに「一番軽いやつを……」と震え声で注文した、大切な「潜入用小道具」だ。

 隅っこの方で、あたかも「仕事の合間に一服しに来た、ちょっとお疲れ気味なOL」を装って立つ。ちらりと視線を横に走らせれば、三メートルほど先に、例のあの人がいた。
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