Toxic・Romance
「(やっぱり、綺麗……。でも、いつもよりずっと機嫌が悪そう) 」

 彼が指先で灰を落とす。その何気ない動作一つが、小説の一文として脳内に書き込まれていく。そこへ、別の男性社員が入ってきた。

 「お、やっぱりここにいた。お疲れ、片桐」

 ――えっ?

 瞬間、思考回路が遅れを取る。あまりの衝撃に、持っていた小道具のライターを落としそうになった。

 (カタギリ……? 今、あの人をそう呼んだの?)

 まさか。嘘でしょ。あの無理難題を押し付けてくる、冷徹なメールマシーンが、この美しい造形物だっていうの?  

 いや、落ち着け私。片桐なんて苗字、日本中に溢れている。佐藤さんや鈴木さんほどじゃなくても、このオフィス街に三、四十人はいてもおかしくない。

「……ああ。例のプロジェクト、やっと一区切り」

「あー、あの優秀なアシストちゃんがいても、かなり難航してたもんな」

疲れているのか、その人が一瞬、言葉を詰まらせたように見えた。
 

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