『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
2  ◇アレ、見ちゃったんだ?


休日だというのに突然急いで出掛けたきりで──
夜遅くに帰ってきた夫。


メールのことを知らなければ、出掛けた目的や誰と会っていたかは気にも
とめなかっただろう。

だって、信頼していたし、安心しきっていたのだもの。

私はその時から、夫の顔を見ることができなくなった。

声も、いつものようには出なかった。
悲しくて苦しくて、やりきれなくて……。


月曜日の晩、私は夫の食事の用意はしたものの、いつものように帰りを
待ちはしなかった。

これまでなら、よほどのことがない限り夫の帰りを待ち、冷めたご飯や
おかずを温め直し、食卓に並べていた。

なんなら、多少なりとも夫との会話もするよう心がけてきた。
自分が疲れていて眠くとも、夫を(ねぎら)いたいという愛情があったから。

だけど、あのような自分に対する裏切りのような戯言を垂れ流しているメールを
見たからには、とてもそんな気持ちにはなれない。

そして、翌朝の見送りの際もおざなりな態度もろだしで―――――
おまけにこの日の夜も夫を待たず就寝した。

2日続けての夫に対するこの態度(仕打ち)、結婚以来初めてのことだ。


流石に何かを感じたのだろう……。
翌水曜日の朝、夫が私に声を掛けてきた。


「ね、なんか変だよ。俺に何か怒ってる?」

「あなたは、余所の女性に自分の大切な、それも少ししかないプライベートな
時間を使っているのよね」


「え~っと、アレ、見ちゃったんだ?」



帰宅後に、自分がメールを開けたまま、パソコンをシャットダウンもせず出かけていたこと。

そして私のよそよそしい態度。

その二つを結びつけて、そう結論づけたのだろう。

夫は、まるで大したことではないかのように、明るく軽い調子で私にそう尋ねてきた。


「……」


「ただ、相談受けてただけだから」


「あの文面から相談に乗っていたようには思えないんだけど。
相手の女性は誰なの? 年齢は? 」


「25才で部下なんだ」

「時々、ランチとかお酒飲みに行ったりとかしてるの?」


『そんなことはいくらなんでもないだろうと思いつつの問い詰めに……返って
きた夫の台詞に私は仰け反りそうになる』


「仕事を一緒にしてるからさ、ランチは一緒にすることもあるよ。
君も仕事してたら分かるだろ? 」


「今まで一緒に仕事してるからって、ランチを毎日一緒に行ったり
仕事終わりにお酒飲みに行ったりしてたなんて、今まで報告受けてないんだけど?

今まで別の人たちの時は別行動だったのに、どうして若い女性の部下だと
そうなるのかしら? 

とにかく部下とあんなメールの遣り取りはやめて、やめてください」


「由香、無理だよ~。仕事絡みだからさっ。
こんなの浮気のうちに入んないでしょ? 
しっかりものの奥さんだからこんなことで怒るなんて思ってもみなかったよ、
正直。

小さいことなんて気にしなくていいんじゃないかなぁ。

今まで俺のこと、詮索せずに俺たち上手くやってきたんだし。
今まで通り、仲良くしようよ」


夫は私がお願いしているのに完全スルー。
反省の色も見えず……私はそれ以上何も言えなかった。


「あっ、遅れそうっ。じゃ、行ってきまぁ~す」


そう言うや否や、ちっとも悪びれない夫は会社に向かった。


私は夫に『ランチを毎日一緒に行ったり仕事終わりにお酒飲みに行ったり
してたなんて、今まで報告受けてないんだけど?』と話を向けた。


どう? 夫はお酒の件をスルーしたのだ。
否定しなかった。酷いっ。

仕事終わりにデートもしているのだ。


夫の出て行った方角を見ながら私は何かがガラガラと崩れ去るのを
感じた。


しっかりもので、なんでもできちゃう? スーパーウーマンで? って、
この私は妻ではなくあなたの母親だとでもいうのかしら?

私は家のことで夫を頼ったことがほとんどなく、結構何でもそつなく
こなしてきたという自負はあるけれど……。

そういうしっかり者で強そうな女は、夫の女性関係に嫉妬しないとでも?
いえ、嫉妬することがおかしいってそういうこと?


夫が自分じゃない誰かに『好きだ』と公言しているのに?

私は彼の理不尽な言動に、頭の中が真っ白になった。

夫の微塵も反省することのない振る舞いに、私の魂は深く傷つき、少し時間が
経過すると……血潮が溢れるほどの予想だにしなかった苦しみに襲われた。

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