初恋は、終電の先に
「俺も似たようなもんだよ。高校三年生になって、図書室で一年生用の貸し出しカードを用意してたら、一年生の女の子が三人、きょろきょろしながら入ってきたんだ。目が合った瞬間、なんか涙目になってるからびっくりしてたら、声をかけられてさ。そのときの笑顔がかわいかった」

「……そ、そんなに前から」

「そうだよ。だから運動会だって頑張ったし、文化祭を一緒に回れたのも嬉しかったし、大学が決まった時に奈月が泣いて喜んでくれて、俺まで泣きそうだった」


 先輩はそう言いながら、また私の首と肩の間に歯を立てた。痛くはないけど、くすぐったくて落ち着かない。


「……だからこそ、卒業式の後のことは俺も悲しかったんだよ。俺が、勇気を出せなかったから、君をあんなに泣かせてしまって」

「あれは、私の方に勇気がなかったから」


 先輩は小さく首を横に振った。


「『先輩いなくならないで』って言われたときに、ちゃんと答えればよかったんだ。『彼女になってくれ』って。そうすれば、あんなに泣かせないで、一緒にいる理由を作れたのに」


 胸元がじわじわ温かくなった。

 先輩の指先が背中に食い込んだ。私はぼんやり天井の明かりを眺めながら、先輩の頭を抱きしめた。


「先輩、ごめんなさい」

「なにが?」

「再会してからだなんて言って」

「ほんとだよ」


 先輩はむすっとした顔で私を見上げた。


「ずっと忘れられなかったから、終電で奈月を見つけた時も、すぐにわかったし。俺がどれだけ嬉しかったか」

「……尚也さん」

「ん?」


 私は先輩の背中を軽く叩いて、体を起こさせた。

 自分も起き上がって、先輩に向き合う。


「シャワーを浴びましょう」

「え、うん」

「それで、ベッドでいっぱい、いちゃいちゃしながら寝ましょう」

「んん?」

「私が気づかないとでも思ったんですか?」


 手を伸ばして、先輩のズボンのポケットを軽く叩いた。そこには、私の手より少し大きいくらいの薄い箱が入っていた。

 まあ、そういうことなんだろう。

 先輩は気まずそうに黙り込んだ。

 私は先輩から目を逸らしたて、テーブルの上のビール缶を飲み干した。

 食べ物はもうないから、コンビニ袋にゴミをまとめていく。

 全部片づけてから、今日は私が先にシャワーを借りた。


 冬の終わりの夜は長いけど、でも全然寂しくなくて、人生で一番幸せな一夜だった。
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