お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 意外にも、この人は振られてばかりだったんだ。

 先ほどまでの驚きは、いつの間にか別の感情に変わりつつあった。
 同情とも、戸惑いともつかない、複雑な気持ちを抱えたまま、私は再び彼を見る。

「……それで、私なんですか?」

 静かに問いかけると、城高山先生はゆっくりと頷いた。
 しばらく沈黙が落ちたあと、城高山先生は意を決したように背筋を正した。
 まるで商談に入る前のような、妙に堅い雰囲気になる。

「正直に言う」

 そう前置きしてから、彼は私をまっすぐ見据えた。

「金なら、いくらでも払う。とりあえずは、婚約者の〝ふり〟をしてほしい」
 あまりにもはっきりした言い方に、私は一瞬、言葉を失う。

「……ふり、ですか?」
「そうだ。本物である必要はない」

 感情を切り離したような口調だったが、その奥に焦りが滲んでいるのが分かった。
「両親がうるさくてな。早く結婚しろ、後継ぎを作れ、の一点張りだ。外科医として軌道に乗ってきた今、誰かと真剣に向き合う余裕がないのに、話を聞いてもらえない」
「それで……私を?」
「そうだ。外科医の仕事のことも知らない、世間知らずのお嬢様なんかよりも、何でも知っている君がいい」
 即答だった。

「婚約を前提に交際している相手がいる、と分かれば、少なくとも今は黙る」
 私の胸に、複雑な感情が渦巻く。
 頼られているようで、同時に都合のいい駒として扱われている気もした。

「……ずいぶん、合理的ですね」
 皮肉を込めて言うと、城高山先生は一瞬だけ視線を伏せた。
「否定はしない。だが……」
 一拍置き、彼は静かに言葉を続ける。
「君なら、信用できると思った。少なくとも、金や立場目当てで近づくタイプじゃない」
 その言葉に、私の心臓が僅かに跳ねる。
 評価されているのか、試されているのか、判断がつかない。
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