お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「万が一、両親に押されて結婚したとしても、後継ぎは考えなくていい」
「……え?」
 思わず聞き返す私に、彼は淡々と言う。
「子供ができない、と言えばいい。理由はいくらでも作れる」
 まるで、最初から用意していた逃げ道のようだった。
「なかなか授からない体質だとか、医者に止められているとか……そう言っておけば、いずれ両親も諦める」
 私の胸に、言いようのない寒気が走る。
 先ほどまで『後継ぎを産めそうだ』と言っていた口で、今度は『できないことにすればいい』と言う。

 都合が良すぎて、吐き気がしそう。

「……それって」
 声が低く震える。
「私の人生も、身体も、全部を言い訳のために使うってことですか?」
 城高山先生は一瞬、言葉に詰まったが、それでも否定しなかった。
「必要なら、そうなるかもしれない」
 その答えを聞いた瞬間、私の中で何かがぷつりと切れた。
「無理です」
 はっきりと、迷いなく言い切る。

「とりあえずでも、無理です。子供を産まないことも、産めないことにするのも、医者である貴方が言うべきことじゃない」
 城高山先生は黙り込む。
 反論の言葉を探しているようだったが、見つからないらしい。
「……すまない」
 小さく落とされた謝罪は、あまりにも遅かった。
 私は首を振る。
「謝られても、答えは変わりません」
 その目には、もう迷いはなかった。
 少しの沈黙のあと、私はゆっくりと息を吐いた。
 感情を胸の奥に押し込めるように、一度だけ視線を落とす。
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