お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「私……」
「これは、俺からの本気の願いだ。真剣に交際してくれないか? 交際してみて、俺のことが気に入らないならそれでいい。俺は振られるのには慣れてるからな」
 そんなことを言われても、どうしたらいいのか分からない。
 私のことを気に入ってくれたのは嘘ではないのかもしれないけれど……、素直に受け取れない。

 同僚ならば、すんなりと上手に交際まで進めただろうか?
 ごく普通のサラリーマンの家庭に生まれた私と、城高山記念病院の院長候補の先生とでは、身分の差がありすぎる。

「私と城高山先生とでは、身分の差がありすぎます」
「身分の差?」
「城高山先生は跡取り息子で院長候補です。何の取り柄もない平凡な私とでは釣り合いませんよ?」
 城高山先生は一瞬、目を丸くしてきょとんとしていたが、すぐに笑い飛ばした。

「ははっ、今時、身分の差とかありえないだろう? 気にしないでくれ」
「いえ、私は気にします……!」
 本人が気にしなくても、城高山先生のご両親は気にすると思う。今までお見合いした方も、家柄の良いお嬢様だったんだろうし……。

「それに万が一、結婚にたどり着いたとしても……」
 私は遮ることなく、はっきり告げた。
「私は、子供が欲しいです。最初から〝作らない〟前提の結婚は受けられません」
 彼の表情がわずかに強張る。
「それと……恋愛をしないまま、結婚したくない」
 静かな空間で、その言葉は重く響いた。
「先生の都合だけで進む関係なら、ここで終わりにしてください」
 沈黙のあと、城高山先生は深く息を吐いた。

「……分かった」
 低く、しかし迷いのない声だった。
「医師としての立場も、家の事情も、一度横に置く。君には、誰にも見られない場所でじゃなく、きちんと向き合う」
 私はすぐには答えなかった。
 けれど、逃げることもしなかった。
 少なくとも、この人は、立場を盾にしない。
 そう感じたことだけは、確かだった。
 正直に言うと、私は彼のことをよく知らない。
 心臓外科医で、腕が良くて、家柄もいい。
 でもそれは全部、外側の話だ。
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