お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 恋愛に関しては、彼はまるで初心者だった。
 女性不信で、距離の取り方も極端で、好きという感情をどう扱えばいいのか、分かっていない。

 それなのに……なんで、こんなに真剣なの。

 使用していない会議室で、私は彼と向かい合っていた。
 白衣を脱いでいる彼は、いつもより少しだけ頼りなく見える。
「恋愛が、どういうものか分からない」
 そう言われたとき、私は返す言葉を失った。
「好きになる順番も、正解も分からない。だから今までは、条件でしか考えられなかった」
 その言葉は、言い訳じゃなくて告白に近かった。

「……だったら」
 私は慎重に言葉を選ぶ。
「無理に、私じゃなくても……」
「予定変更だ」
 被せるように言われて、思わず息を呑む。

「まずは、交際しよう」
 あまりにも真っ直ぐで、あまりにも無防備な言い方だった。
「ちょっと待ってください」
 慌てて首を振る。
「そんな簡単に言われても……」
「分かってる」
 彼は頷いた。

「詳しく言うならば、恋愛しながら、お試し婚しよう」
「……?」
 淡々とした声なのに、言葉の内容だけがやけに大胆だ。
「お互いに無理だと思ったら、そこで終わりにするのはどうだ? 全部なかったことにする」
 逃げ道を用意されているのに、
 断る理由だけが、少しずつ削られていく。

「……お試し婚って言うのは?」
 確認すると、彼は少し考えてから頷いた。
「恋愛しながら、結婚できるかどうかも試そう。一石二鳥だろ?」
 一石二鳥だと言われても困る。
 城高山先生は、自分の提案が良いものだと思ってにこにこしている。
「職場では今まで通りで?」
「もちろん」
 そこまで言われると、
 私の中の警戒心は、ほとんど意味を失っていた。
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