お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「あくまでも……お試し、ですからね」
 念を押すように言うと、城高山先生はわずかに目を細めた。
「分かってる。まずは恋人からのスタートだ」
 胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
 こんなの、恋愛の練習にもならないはずなのに。
 そう思いながらも、私は結局、その提案を受け入れてしまった。

「……じゃあ、私たち、今から、一応、恋人……なんですね?」
 そう口にした瞬間、胸が妙に落ち着かなくなる。
 偽装だと分かっているのに、言葉にすると現実味が増した。

「そうなるな。でも、俺は勝浦さんのことを好きだからな。それだけは忘れないでくれ」
 城高山先生は即答したあと、少しだけ考え込むように眉を寄せた。
 私は頬が赤くなっていくのを感じ、彼の顔をまともに見れない。

「……まず、何をすればいい?」
 思わず足を止める。
「え?」
「恋人として、だ」
 真剣そのものの表情だった。
 冗談でも、からかいでもない。

「普通は……連絡を取り合ったり、休みの日に会ったり、ですかね」
 控えめに言うと、彼は頷きながら復唱する。
「頻度は?」
「頻度まで聞くんですか……?」
「一般的な基準が分からない。毎日とか?」
 その正直さに、思わず苦笑が漏れた。
「毎日じゃなくていいです。無理のない範囲で」
「そうか……」
 即、了承した彼だが、少ししょんぼりしているように見える。
 その反応の早さが逆に不安になる。
「……それから」
 私は一瞬迷ってから続ける。

「距離感も、今まで通りで大丈夫です。急に変える必要はないですが、病院内で会うのは避けましょう」

「分かった。出かけた時の手は、スムーズに繋ぐべきか?」
「……はい?」
 あまりに直球すぎて、思考が止まった。

「恋人なら、接触は必要だろう」
 真顔で言われて、耳が熱くなる。
「必須じゃないです!」
 慌てて否定すると、彼は少しだけ首を傾げた。
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