お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 自分で言っておきながら、胸の奥が少し痛んだ。
 それでも、これは隠したままにできない気持ちだった。
 私はただ返事を待った。
 拒絶ではなく、逃げでもない――
 受け止めてもらえるかを確かめるための、正直な告白だった。
 私は、思わず唇を噛みしめた。
 胸の奥が熱くなり、視界がにじむ。
 泣いてはいけない、と必死に堪える。
 それでも、込み上げてくるものまでは止められなかった。

『私……』
 声がわずかに震える。

『このまま……貴方を、好きになってもいいのかな』

 自分でも驚くほど、弱い問いだった。
 けれど、それが今の精一杯だった。

『良いも悪いもないだろ。好きになってもらわないと困るんだよ』
 言い切る声は、冗談めいているのに、本気だった。
『俺はもう、君のことを好きになってしまったんだから』

 逃げ場のない告白だった。
 責めるようでも、迫るようでもなく、ただ事実を告げる声。
 私の瞳から、ついに一粒、涙がこぼれ落ちる。
 それは不安の涙ではなく、
 受け入れられたことを知ってしまった人間の、どうしようもない感情だった。

『泣いてるのか? ……泣かせるつもりはなかったんだけどな』

 胸の奥がきゅっと縮んだ。
 逃げていると思われたらどうしよう。
 でも、もう嘘はつきたくなかった。
 声が震えないように、スマホを持つ指先に力を込める。

『この気持ちを、なかったことにはしたくないです。あなたを……好きになってしまったことも』

 言ってしまった。
 もう引き返せない言葉だった。

『ありがとう、また連絡するから。泣かないで待っててくれないか……』
 私は静かに電話を切った。
 そのままベッドに倒れ込んで、掛け布団を被った。
 ついに気持ちを伝えてしまった……!
 感情が溢れ出して止まらなくて。
 もっと話したい、一緒に居たい。
 私は胸がきゅんと締め付けられるような感覚のまま、目を閉じた。
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