お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
翌朝、目覚ましより少し早く、意識が浮かび上がった。
あの電話のあと、そのまま眠ってしまったようだ。
ただ、夢の続きみたいな感覚が、まだ残っている。
スマホを手に取る。
画面が点いた瞬間、通知がひとつ表示された。
彼の名前。
心臓が、小さく跳ねる。
メッセージを開くと、そこには短い一文だけがあった。
『おはよう。昨晩はありがとう。行ってきます』
それだけ。
特別な言葉も、昨日の話の続きもない。
なのに、胸の奥がふっと緩む。
「……普通だ」
思わず、独り言がこぼれた。
昨日のことが夢じゃなかったと、この何気ない挨拶が教えてくれる。
深く考えすぎずに、私は返信を打つ。
『おはようございます。手術頑張ってください』
送信してから、少しだけ画面を見つめる。
まだ答えは出ていない。
不安も、迷いも、ちゃんと残っている。
それでも、こうして些細な幸せをくれる人を大切にしたい気持ちを否定できなかった。
私はスマホを伏せて、布団から出る。
今日も、いつもと同じ一日が始まる。
少しだけ、違う気持ちを抱えたままで──。
城高山先生に気持ちを伝えたのも束の間、出勤するなり就業後の夕方五時過ぎに院長室に来るように、と院長秘書の方から私宛に内線で電話があった。
あいにく同僚の森さんが隣の席から耳を澄ませて聞いていて、根掘り葉掘り聞かれたが、私自身、何故呼ばれたのかが分からなかった。
就業後に院長室へと出向く。
ノックをしてから扉が開くまでの時間が、緊張でやけに長く感じる。
「……失礼いたします」
声が、わずかに硬くなるのが自分でも分かった。
「どうぞ」
中から聞こえた低い声に、背筋が伸びる。
ドアを開けると、院長は書類から顔を上げた。
その表情を見た瞬間、胸の奥がひやりと冷える。
私を見て微笑んでいる?
穏やかで、どこか楽しそうな笑み。
それが逆に、逃げ場のなさを際立たせた。
「お疲れのところ、お呼び立てしてすまないね」
そう前置きして、院長は椅子にもたれかかる。
「勝浦さんと言ったかな?」
その一言で、室内の空気が一気に張りつめる。
「君が最近、息子と一緒にいるところをよく見かけるという噂を耳にしてね……」
心臓が、大きく跳ねた。
言葉を失った私を見て、院長はさらににこりと笑う。
「息子と交際しているのかな?」
まるで世間話でもするような口調だった。
肩透かしを食らったようで、でも、油断できない。
これは確認だ。
否定も、肯定も、どちらも逃げ道にはならない。
「……いえ」
声が、少しだけ掠れる。
「交際、と言えるほどのものでは……」
院長はふむ、と頷いた。
「そうかそうか。今どきは色々あるからね」
それ以上追及するでもなく、
穏やかな笑顔のまま、話題を切り替える。
「君の仕事ぶりについても、事務長がとても褒めているよ」
ありがたいその言葉に、ようやく肩の力が抜ける。
けれど、安心はできなかった。
院長は最後に、意味ありげに付け足す。
「……ただ、覚えておいてほしい。ここは、家族経営の病院だ」
にこやかな表情のまま。
「公私の区別は、大切だからね」
それが忠告なのか、
それとも、すでに始まっている監視なのか。
私は深く頭を下げながら、
胸の奥で、はっきりと理解していた。
あの電話のあと、そのまま眠ってしまったようだ。
ただ、夢の続きみたいな感覚が、まだ残っている。
スマホを手に取る。
画面が点いた瞬間、通知がひとつ表示された。
彼の名前。
心臓が、小さく跳ねる。
メッセージを開くと、そこには短い一文だけがあった。
『おはよう。昨晩はありがとう。行ってきます』
それだけ。
特別な言葉も、昨日の話の続きもない。
なのに、胸の奥がふっと緩む。
「……普通だ」
思わず、独り言がこぼれた。
昨日のことが夢じゃなかったと、この何気ない挨拶が教えてくれる。
深く考えすぎずに、私は返信を打つ。
『おはようございます。手術頑張ってください』
送信してから、少しだけ画面を見つめる。
まだ答えは出ていない。
不安も、迷いも、ちゃんと残っている。
それでも、こうして些細な幸せをくれる人を大切にしたい気持ちを否定できなかった。
私はスマホを伏せて、布団から出る。
今日も、いつもと同じ一日が始まる。
少しだけ、違う気持ちを抱えたままで──。
城高山先生に気持ちを伝えたのも束の間、出勤するなり就業後の夕方五時過ぎに院長室に来るように、と院長秘書の方から私宛に内線で電話があった。
あいにく同僚の森さんが隣の席から耳を澄ませて聞いていて、根掘り葉掘り聞かれたが、私自身、何故呼ばれたのかが分からなかった。
就業後に院長室へと出向く。
ノックをしてから扉が開くまでの時間が、緊張でやけに長く感じる。
「……失礼いたします」
声が、わずかに硬くなるのが自分でも分かった。
「どうぞ」
中から聞こえた低い声に、背筋が伸びる。
ドアを開けると、院長は書類から顔を上げた。
その表情を見た瞬間、胸の奥がひやりと冷える。
私を見て微笑んでいる?
穏やかで、どこか楽しそうな笑み。
それが逆に、逃げ場のなさを際立たせた。
「お疲れのところ、お呼び立てしてすまないね」
そう前置きして、院長は椅子にもたれかかる。
「勝浦さんと言ったかな?」
その一言で、室内の空気が一気に張りつめる。
「君が最近、息子と一緒にいるところをよく見かけるという噂を耳にしてね……」
心臓が、大きく跳ねた。
言葉を失った私を見て、院長はさらににこりと笑う。
「息子と交際しているのかな?」
まるで世間話でもするような口調だった。
肩透かしを食らったようで、でも、油断できない。
これは確認だ。
否定も、肯定も、どちらも逃げ道にはならない。
「……いえ」
声が、少しだけ掠れる。
「交際、と言えるほどのものでは……」
院長はふむ、と頷いた。
「そうかそうか。今どきは色々あるからね」
それ以上追及するでもなく、
穏やかな笑顔のまま、話題を切り替える。
「君の仕事ぶりについても、事務長がとても褒めているよ」
ありがたいその言葉に、ようやく肩の力が抜ける。
けれど、安心はできなかった。
院長は最後に、意味ありげに付け足す。
「……ただ、覚えておいてほしい。ここは、家族経営の病院だ」
にこやかな表情のまま。
「公私の区別は、大切だからね」
それが忠告なのか、
それとも、すでに始まっている監視なのか。
私は深く頭を下げながら、
胸の奥で、はっきりと理解していた。