お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「ちょっと待ってください」
彼が、即座に口を開いた。
いつもの落ち着いた声より、わずかに硬い。
「おや。否定するのか?」
「否定というより……」
城高山先生は庇うように一歩、私の前に立つように位置を変えた。
「彼女を、こちらの条件や都合で縛るつもりはない。婚約の話も、今ここで決めるようなことじゃない」
はっきりとした口調だった。
院長相手でも、引かない。
「本人がどう思っているかが、全てだ」
室内が、しんと静まり返る。
院長は腕を組み、ゆっくり頷いた。
「……なるほど」
そして、私へと視線を向ける。
「確かに、その通りだね」
にこやかなまま、逃げ場を残さない声で言った。
「では、君はどう思う?」
一気に、視線が集まる。
心臓の音が、耳の奥で響く。
『好きになってもらわないと困る』という昨晩の言葉も、
今朝の、何気ない「おはよう」も……全てが愛おしい。
けれど、今この場所で突きつけられる〝正式な婚約者〟だけは、あまりにも急で、現実感がない。
それでも、無視はできない。
返す言葉が、出てこない。
断る勇気も、受け入れる覚悟も、まだ揃っていなかった。
それでも、城高山先生は何も言わず、ただ待っている。
背中越しに伝わってくるのは、急かさないという、明確な意思だった。
「……すぐには」
やっと、それだけを絞り出す。
「すぐには、答えられません」
院長は一瞬だけ目を細め、
それから、ふっと笑った。
「そうか。では、それでいい」
意外なほど、あっさりした声だった。
「答えは急がなくていい。ただ――」
含みを持たせて、続ける。
「君のことは、正式に〝候補〟としては考えさせてもらうよ」
私は、息を呑んだ。
それは猶予であり、同時に宣告でもあった。
彼は小さく息を吐き、振り返って私を見る。
その目にあったのは、困惑ではなく、変わらない真剣さだった。
本当に、戻れないところまで来てしまった。
そう思いながらも、不思議と後悔だけはなかった。
院長室から二人で出て、ドアを静かに閉める。
その瞬間、張り詰めていた空気が一気に抜ける。
廊下には、私たち二人の足音しかなかった。
彼が、即座に口を開いた。
いつもの落ち着いた声より、わずかに硬い。
「おや。否定するのか?」
「否定というより……」
城高山先生は庇うように一歩、私の前に立つように位置を変えた。
「彼女を、こちらの条件や都合で縛るつもりはない。婚約の話も、今ここで決めるようなことじゃない」
はっきりとした口調だった。
院長相手でも、引かない。
「本人がどう思っているかが、全てだ」
室内が、しんと静まり返る。
院長は腕を組み、ゆっくり頷いた。
「……なるほど」
そして、私へと視線を向ける。
「確かに、その通りだね」
にこやかなまま、逃げ場を残さない声で言った。
「では、君はどう思う?」
一気に、視線が集まる。
心臓の音が、耳の奥で響く。
『好きになってもらわないと困る』という昨晩の言葉も、
今朝の、何気ない「おはよう」も……全てが愛おしい。
けれど、今この場所で突きつけられる〝正式な婚約者〟だけは、あまりにも急で、現実感がない。
それでも、無視はできない。
返す言葉が、出てこない。
断る勇気も、受け入れる覚悟も、まだ揃っていなかった。
それでも、城高山先生は何も言わず、ただ待っている。
背中越しに伝わってくるのは、急かさないという、明確な意思だった。
「……すぐには」
やっと、それだけを絞り出す。
「すぐには、答えられません」
院長は一瞬だけ目を細め、
それから、ふっと笑った。
「そうか。では、それでいい」
意外なほど、あっさりした声だった。
「答えは急がなくていい。ただ――」
含みを持たせて、続ける。
「君のことは、正式に〝候補〟としては考えさせてもらうよ」
私は、息を呑んだ。
それは猶予であり、同時に宣告でもあった。
彼は小さく息を吐き、振り返って私を見る。
その目にあったのは、困惑ではなく、変わらない真剣さだった。
本当に、戻れないところまで来てしまった。
そう思いながらも、不思議と後悔だけはなかった。
院長室から二人で出て、ドアを静かに閉める。
その瞬間、張り詰めていた空気が一気に抜ける。
廊下には、私たち二人の足音しかなかった。