お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 先日、院長室に呼ばれてからだった。それをきっかけに、私は何かにつけて院長に呼ばれるようになった。
 用件は雑談の延長のようなものだったり、仕事の確認だったり、時にはただ世間話だけで終わることもある。
 けれど不思議なことに、城高山先生が同席を求められることは一度もなかった。

 最初から、そのつもりだったのだと気づいたのは、ある日の呼び出しだった。
『今日はね、少し個人的なお話をしたくて』
 そう前置きした院長は、柔らかな笑みを浮かべながら、
『息子の恋人としてというより、ただ一人の女性として、一度うちに遊びに来てほしいんだ』と言われた。
 予想していなかった言葉に、私は一瞬、息を詰める。
 立場も、距離も、すべてを曖昧にするその誘いは、断るにはあまりにも角が立ちすぎた。

 私は断らずに了承すると院長は満足そうに頷き、日程はまた連絡するからと穏やかに微笑んだ。
 その夜、電話で城高山先生に話すと、『ごめん、うちの両親が早まったことをして……』と謝られたが、私は彼のご実家がどんな風なのかを知っておきたかった。
 院長の意図が完全には読めなくても、今後のこともあるし、顔合わせはしておくべきだと思った。

 こうして私たちは、偽装恋人未満という少しだけ歪な関係のまま、城高山先生のご実家へ向かうことになった。
 建前でも、正式でもない。
 けれど確実に、何かを試される訪問になる。そんな予感だけが、重く胸に残っていた。
 城高山先生の家族の事情はよく知らないけれど、彼には義母と二歳上の姉がいる。
 姉の真希さんとは病院内でもあまり接点はないが、美人で美脚の持ち主なのは知っている。義弟の城高山先生と話しているのを見たことがある。クールな印象だが、二人はとても仲が良い。

 血のつながりでは測れない家族の形があることを知りつつも、紹介されることは、ただの挨拶ではない。
 城高山先生にとっては、過去と現在を繋ぐ節目であり、
 私にとっては、彼の人生そのものに足を踏み入れる日でもあった。
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