お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「ごめんなさい。悪気はなかったのよ?」
「なら、なおさら言い方を考えてほしい」
 城高山先生はそう言って、私の方を見る。
「気にしなくていい」
 その一言で、胸の奥に溜まっていたものが、すっと溶けた。
「……ありがとう」
 小さくそう返すと、彼はほんの少しだけ微笑んだ。
 お姉さんはその様子を見て、興味深そうに目を細める。

「ふうん……」
「弟が、そこまで言うなんてね」

 その視線に、まだ棘が残っているのは分かったけれど、少なくとも私は一人じゃない。
 私は彼の隣に立ち直し、背筋を伸ばした。

「勝浦さん、今日は来てくれてありがとう」
 城高山先生の父である院長が来て、家族は全員揃った。
「さて、乾杯しようか」
 院長はそう切り出し、私の方を見る。
 用意されていたワイングラスに、赤ワインが注がれていく。
 私はお酒はあんまり得意ではないけれど、乾杯だけはいただこう。

「奥様、お食事をお出ししても宜しいでしょうか?」
「えぇ、お願いします」
 襖を開けて、お手伝いさんらしき方が確認に来た。
 次々と運ばれて食卓に並んだ料理から、湯気が立ちのぼっていた。
 義母の手料理らしく、どれも丁寧で繊細な味がする。
 私は背筋を伸ばしたまま、箸を持っていた。

「息子から話は聞いているわ。可愛いし、真面目そうな方で安心してるのよ」
 乾杯が終わると、ワイングラスを右手に持ちながら義母が微笑む。
「きちんとお仕事もされているし、何より、息子が、あんな優しい顔付きで女性を見るなんて初めてなの」
 その言葉に、頬が少し熱くなる。
 彼は照れたように咳払いをした。

 これで、ひとまずは義理のお母さんの晴美さんにも認めてもらえた。
 そう思った、その直後。
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