お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
お試し婚の始まり
 主任になり、新人の面倒を見ることが増え、毎日は相変わらず忙しかった。
 帰宅が遅くなる日も多く、体は正直へとへとだったけれど、不思議と心は満たされていた。

 城高山先生との交際は順調だった。
 彼は当直があるため、仕事終わりの夜に会える日は限られている。それでも、時間が合う日は自然と私の自宅に寄るようになっていた。
「お邪魔します」と言いながらも、その言葉に遠慮はほとんど残っていない。

「今日も美味しかった、ごちそうさまでした」
食後、いつものように丁寧に手を合わせる。
 メニューは肉じゃがと、ほうれん草としめじのおひたし、野菜たっぷりの味噌汁、鮭の塩焼き。
 特別じゃない、けれど彼の好みはもう分かっていて、自然と手が動く献立だった。

「もう、このまま、ここに住んじゃおうかな。自宅よりも帰ってきた、って感じがするから」
 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
 帰る場所、と言われるほどの関係になっていることを、今さらのように実感してしまった。

 私が住んでいるのは一LDKの狭いアパートなのに、城高山先生は文句も言わずに通ってくれている。
 近場にある駐車場に車を停めているので、駐車料金もかかっているのに……来れる時はほぼ毎日のように寄ってくれる。

 食器を片付けていると、背後からそっと抱き寄せられる。
 強くはない、逃げ場を残した腕。
それがかえって優しくて、私は何も言わずに身を預けた。

「勝浦さん、俺が来るからって無理しすぎないで。料理ももっと簡単なものでもいいから、自分のためにも時間を割いて」
 耳元で低く囁かれ、思わず笑ってしまう。

「ふふっ。だって私は、城高山先生が来てくれるのが楽しみなんですよ。逆に来ない日は寂しくなります」
 そう答えると、彼は小さく息を吐いて、私の肩に額を預けた。
「今のは破壊力やばい。理性を保てなくなりそう」
「理性……?」

 城高山先生との些細なやり取りも、じゃれ合いも、いつの間にか慣れてきた。
 綺麗な顔を見るだけ、隣にいるだけで、ドキドキが加速するのは今も変わらずだけれども……二人で過ごす夜は、もう特別なイベントではなくなりつつあった。
< 40 / 62 >

この作品をシェア

pagetop