お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 数日後。
 院長、城高山先生、関係者数名が集められた場に、私も呼ばれた。
 重苦しい空気の中、彼ははっきりと言った。
「噂を流した人物は、特定できました」
 視線が一斉に彼へ集まる。
 その中で一人だけ、わずかに表情を強張らせた人物がいた。

 ──義姉だった。

「証拠もあります。噂の内容は、過去のお見合い相手に流されたものと、ほぼ同じでした」

 彼が差し出した資料に、院長が目を落とす。
 ページを捲るたび、空気がさらに冷えていくのを感じた。

「この内容を最初に話したのは、誰ですか」

 院長の問いに、義姉は一瞬だけ黙り込んだ。
 だが、すぐに取り繕うように微笑む。

「私はただ、人づてに聞いたことを――」
「違う」
 彼は、きっぱりと言い切った。

「貴方は、二年前のお見合いの時も同じことをしましたよね。相手の方に、〝彼は女性関係がだらしない〟と直接連絡した」

 場が凍りついた。

「……それは、貴方のためを思って」
「その時使った連絡先、今回も同じでした」

 逃げ場を塞ぐように、彼は続ける。
 院長が、ゆっくりと顔を上げた。

「説明しなさい」
 低く、威圧的な声。
 義姉の唇が震える。

「……だって」
 その声は、今まで聞いたことがないほど掠れていた。
「また、私じゃない別の人……ましてや、ぼんやりとした取り柄もないこの人が選ばれるなんて……」
 義姉の視線が、私に向く。
 そこにあったのは、怒りでも憎しみでもなく、歪んだ執着だった。

「貴方がいなければ、今度こそ、私の番だと思ったのに」
 その一言で、すべてが確定した。
 誰もが理解した。
 噂を流したのは、彼女だと。
 院長は深く息を吐き、目を閉じた。

「……もういい。この件は、私が責任を持って処理する」
 私は、城高山先生の背中を見つめていた。
 私の知らないところで、彼はずっと戦ってくれていたのだ。
 それでも、胸の奥に残る冷たさは消えない。
 家族という名の近さが生んだ裏切りは、想像以上に重かった。
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