お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「院長、今回の事件には手引きしたものがいます。それは勝浦さんの同僚、森です」
「え?」
 私は思わず声をあげてしまう。
 まさか、森さんがするわけないよね?
 私のことを慕ってくれていたのに。
 しかし、おかしな行動がなかったわけではない。
 何かと城高山先生の情報を知りたがっていた。

「勝浦さんは何も悪くありません。私からは以上です」

 城高山先生のその一言だけで、私はようやく息ができた気がした。
 院長は、これまでずっと、彼の義姉である真希さんの言葉に逆らわない人だった。
 表立って争うことを避け、家庭の波風を立てないために、どんな理不尽も飲み込んできたのだと、私は聞いている。

 けれど、この時ばかりは違った。

「いい加減にしなさい!」
 院長室に響いた怒声は、私が今まで聞いたどんな声よりも荒々しかった。
 机を叩く手は震え、抑え込んできた感情が、一気に噴き出したように見えた。

「真希の身勝手で、どれだけの人間を傷つけたと思っている。家族だからといって、何をしても許されるわけがない」

 いつもなら義姉の真希さんの顔色を窺い、折れるはずの人が、一歩も引かない。

 義姉は唇を尖らせ、子どものように顔を背けた。

「……もういい。婚約者だけじゃなくて、今まで居た壱知の恋人とも別れさせたのは全部私よ!」

 それきり彼女は不貞腐れ、父親とはほとんど口を利かなくなったと、後で聞いた。
 自分が咎められた理由を省みることもなく、被害者であるかのように殻に閉じこもってしまったらしい。

 それでも、嫌がらせの件は正式に収束した。
 噂は否定され、関係者には事実が伝えられ、私たちの名誉も守られた。

 長い間、胸を締めつけていた不安が、ようやく解けていく。
 城高山先生が女性不信に陥っていたのは、真希さんが恋人と別れるように仕組んでいたのを知っていたから。
 知っていたからこそ、私のことは守り抜きたいと思ってくれていたようだった。

 そして、私たちは無事に婚約を済ませた。

 指輪をはめてもらった瞬間、現実味のなかった出来事が、確かな形を持って胸に落ちてきた。
 これまでの不安も、恐れも、すべてが消えたわけではない。
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