お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 後日、婚約届の承認を得ようとを報告するために院長室を訪れたとき、私は思っていた以上に緊張していた。
 扉の前で立ち止まると、城高山先生がそっと私の手を握る。

「大丈夫」
 その一言と、指先の温度に背中を押され、私たちは中へ入った。
 院長は、書類から顔を上げ、私たちを見た。
 一瞬、厳しい表情を浮かべたあとで、彼が口を開く。

「父さん。正式に報告があります」
 彼は私の手を離さず、はっきりと言った。
「彼女と、結婚します」
 室内が、静まり返る。
 私の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
 院長は、しばらく何も言わなかった。
 やがて、深く息を吐き、椅子にもたれかかる。

「……そうか」
 低い声だったが、そこに怒りはなかった。

「今回の件で、お前が何を守ろうとしたのかは分かっている」
 視線が、私に向けられる。
「……辛い思いをさせたな」
 その言葉に、胸が熱くなった。
 私は、思わず頭を下げる。
「いえ……」
 院長先生は、小さく首を振った。

「これからは、家族になる。遠慮はいらん」
 そして、ほんのわずかに口元を緩めた。
「お互いに幸せになりなさい」
 それだけで、十分だった。
 城高山先生は私の手を、少しだけ強く握り返す。
 その仕草が、何よりの答えだった。

 それから、結婚式までは、あっという間だった。
 城高山先生は大病院の跡取り息子なので、壮大な結婚式だった。
 親しい人たちに囲まれ、静かで温かな時間。
 白いドレスに身を包み、彼の隣に立った瞬間、現実感が押し寄せる。
 この人と、生涯を共にするのだと。

 誓いの言葉を交わすとき、彼は私だけに聞こえる声で囁いた。
「やっと、ここまで来たね」
 私は、涙をこらえて頷く。
「……はい」
 指輪を交換する指先が、少し震えていた。
 それでも、迷いはなかった。
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