お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「大丈夫。今日はゆっくり休もう」
「……一緒に眠るだけ?」
「さぁ? どうかな?」
 そう言って微笑む城高山先生の顔が、ずるいくらい優しかった。
 私は、彼の肩にそっと頭を預ける。
「ねえ、城高山さんの名字で呼ばれるの、慣れるかな」
「時間がかかるかも。でも小春が城高山さんって呼ばれるたびに俺が嬉しくなると思う」
 その言葉に、思わず笑ってしまった。

「ふふっ、そんなところも好き」
 小さく言うと、彼の手が、私の背中をそっと撫でる。
「俺のほうが、ずっと」
 それだけで、胸がいっぱいになる。
 外では、夜の街が静かに光っていた。
 私たちはまだ、ただ寄り添っているだけ。
 けれど、この時間が、何よりも甘かった。
 部屋の灯りを少し落とすと、空気まで柔らかくなった気がした。

「……そろそろ、休もうか」
 城高山先生がそう言った瞬間、胸が小さく跳ねる。
 ただベッドに行くだけなのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。
「う、うん」
 返事が少し上ずってしまって、彼は気づいたように微笑んだ。

「そんな顔しなくても」
 からかうわけじゃない。
 でも、楽しそうだった。
 並んでベッドのそばまで歩く。
 スイートルームの広いはずの部屋が、急に狭く感じられる。

 私はシーツに手を触れただけで、立ち止まってしまった。
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