お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「さて、昼間の話だけど……」
 オーダーを済ませると、城高山先生は要件を切り出した。
 声の調子が、ほんの少しだけ変わったのを私は聞き逃さなかった。
 言葉を選びながら、その内容に触れ、遠回しに「他言しないでほしい」と告げてくる。

 やっぱり……、この食事は、口止めのため。
 想像できていたために、ほかの感情は沸かないけれど。

「その……たまたま通りかかっただけで……、盗み聞きみたいなことになってしまい、申し訳ございません! 本当に、聞くつもりは……なかっ……」
「もう謝らなくていい。公共の場でプライベートな話をしていた、こちら側にも責任がある。謝るのは俺だ、申し訳なかった」
「い、いえ、そんなことはないです」
 私が謝ろうとすると、逆に城高山先生が謝ってきた。

「婚約破棄されたのは事実だ」
「でも……院長のあんな言い方……」
 言いかけて、はっと口をつぐむ。余計なことを言ったかもしれない。
「縁談が壊れるたび、俺の人格が原因だと言われる。今回もそれだけだ」
 淡々とした口調なのに、その裏に押し込められた苛立ちが伝わってきて、私の胸がきゅっと締めつけられた。

「……でも、全部が城高山先生のせいだなんて思えません」
 勇気を振り絞って言うと、城高山先生の眉がわずかに動く。
 病院内でも評判が良く、悪い噂など一つも聞かない城高山先生が縁談を断られるだなんて……見る目がないのはお見合い相手の方だと思う。

「そうか?」
「さっきの話だけですけど……少なくとも、院長の一方的な発言に聞こえました」
 沈黙が落ちる。私は今にも叱られる覚悟をした。
 しかし次の瞬間、城高山先生はふっと息を吐いた。
「変わったやつだな」
「……すみません」
「謝るな。嫌いじゃない」
 その言葉に、私は目を見開く。
「それと……」
 城高山先生は私の目をじっと見てきて、視線が絡む。
「どちらにせよ、見合い話なんて、最初から断るつもりだった」
「え?」
「結婚したとして、お互いが気に入らない限り、遅かれ早かれ離婚することになるだろう。一生を添い遂げるつもりの伴侶ならば、絶対に忠誠を誓える人じゃなきゃ無理だ」
 あまりにも予想外の内容だった。どうせ仕事か世間体の延長で、家柄の良い女性と婚約すると油断して聞いていたからだ。
 けれど次の瞬間、耳に飛び込んできた言葉に、思わず思考が止まる。
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