御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 お風呂上がりでいい匂いのする彼に擦り寄り、温かな体を抱きしめる。
 心地よい気分に身を任せて、甘えたい気分だった。
 少しだけなら許されるかもしれないと、思ってしまった。
 だけど彼は私の体を引き剥がすと、水が入ったグラスを押し付けた。

「ぜんぶ飲んで」
「なんで……」
「すこし酔いを覚ませ」
「なんで、わたしから、はなれるんですか……!」
「は……?」

 彼に距離を取られたことが悲しくて、グラスを持ったままポタポタと涙を零す。
 別に泣きたいわけではないのに、一度涙が出ると止まらなかった。

「わたしのこと、きらいですか……?」
「なんでそうなる」
「だって、わたしは、ほんとうのつまじゃないですし、このまえも、いやりんぐ、こわされちゃうし……」
「壊された……? 落としたのではなく……?」
「わたしは、蓮さんのつまに、ふさわしくないからって……、ほおをぶたれたときに、おちちゃって」
「誰がそんなこと……!」

 ぎゅうっと痛いぐらいに抱きしめられて、持っていたグラスが畳の上を転がる。
 せっかくお風呂に入ったのに、おへそから下が濡れてしまった。

「わたし、れんさんのつま、失格ですか……?」
「そんなことない」
「でも、わたしは仮のつま、ですし……。けいやく、ですし……」
「俺は……っ、元々千尋がよくて……! あぁ、クソッ、言うつもり、なかったのに……」
「うそです。さては、よってますね!?」
「酔ってるのは千尋だよ」
「うそはいやですっ。わたしのこと、すきじゃないくせに……!」

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