御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 もう離れて! と、彼を押し返したときだった。
 力強く腕を引かれて、彼の胸に頭を押し付けられた。

「蓮、さん……?」
「どうしたら、わかってくれる……?」

 彼の苦しそうな声が鼓膜を揺らす。

 彼が呼吸をするたびに耳たぶに息が当たってくすぐったかった。もともとアルコールで熱くなっていた耳がさらに熱を持って痛みすら感じる。
 ゆっくりと顔を上げたのと同時に、彼の大きな手で両頬を優しく包み込まれた。

「千尋」
「んっ……」

 名前を呼ばれたのと同時に互いの唇が触れ合って、すぐに離れていく。
 一瞬、何が起きたのかわからず、えっ、と声を漏らした。

「これでわかった?」

 砂糖を煮詰めたような、あまくとろける声だ。優しさを孕んだその声が、心の温度を上げる。

 ここで、わからないと言えば、もう一度、してくれるのだろうか。

 期待混じりに子どもみたく首を振ったら、蓮さんの唇が近づいてきた。

「……ん、」

 今度は触れ合うだけではなく、吸い付くような動きで下唇を揉まれる。
 ちゅっ、ちゅ、とわざとリップ音を立てて唇がくっついては離れていくのを繰り返されて呼吸が震えた。

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