御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「千尋、ここ開けて」
「だめ、です。ひとりで、入ります……」

 さすがにお風呂まで一緒はハードルが高すぎる。明るいところで裸を見られるのは無理だと突っぱねたら、彼はあっさりと引いてくれた。

「わかった。じゃあ、朝ご飯を持ってきてもらうように手配しておく」
「……ありがとうございます」

 はぁ、と一息ついてシャワーを浴びる。
 温かいお湯で綺麗に汗を流したら、幾分か気持ちが落ち着いてきた。


「あと三十分ぐらいで来るように手配しといたから」

 リビングに戻ると、彼が昨夜と同じように新聞を開いている。
 昨日、中途半端になっていた食器類をワゴンに戻しておいてくれたのか、座敷にあるテーブルの上が綺麗になっていた。

「あの、片付け……ありがとうございます」
「どういたしまして。俺も風呂に行ってくる」

 乾かしたばかりの髪をさらりと撫でて、彼が脱衣所に入っていく。
 普段よりも態度が甘すぎて困惑するけれど、私のように焦っている様子は見られなかった。

 ――私だけが、意識しているみたい……。

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