御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 蓮さんにとっては、数いる女性のひとりにすぎないのかもしれない。
 特別なことではないのかもしれないと思うと、心に影が差した。

「普段通りにしなくちゃ……」

 ぱちんと両頬を叩いて、気分を切り替える。

 それからほどなくして朝食を持ったスタッフがやってきた。
 朝も和食らしく、ご飯に味噌汁、煮物や小鉢に入った副菜などがテーブルに並べられる。
 スタッフは昨日のワゴンを持って去っていった。

「朝も豪華だな」

 スタッフと入れ違うように脱衣所から戻ってきた蓮さんが座敷に座る。
 気恥ずかしさで箸が進まないのは私だけで、蓮さんはいつもと同じように朝食をとっていた。

 そうしてチェックアウトまでの間、ホテルで時間を過ごし、一泊二日の短い新婚旅行が終わる。

 家に戻ってきた頃には、私の緊張も幾分か解けていた。

「旅行もいいけど、やっぱり家が落ち着くな」
「ふふ、わかります。お料理も温泉もよかったですけど」

 ソファーに座り、一息つく蓮さんの前に淹れたばかりのお茶を置く。
 帰り際、ホテルのオススメだという茶葉を買った私は、早速その茶葉を使ってお茶を淹れてみた。

「すごく、いい香り……」

 すんと鼻を鳴らして、匂いを嗅ぐ。
 彼の隣でお茶を楽しんでいた私は、急に近付いてきた彼に驚いてカップを揺らした。

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