御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「おやすみ、千尋」
「おやすまなさい」

 ちゅっ、と軽く触れるだけのキスを唇に落とされる。
 久しくキスもしていなかったから、気恥ずかしかった。

「何かあったら、声かけて」
「はい……」

 彼が部屋から出ていってから、ふぅ、と息をつく。
 不思議と自分の部屋にいるときよりも落ち着いて、私はとろとろとした眠気に誘われた。


 それからしばらく経ち、強い吐き気に襲われて、私はベッドを抜け出した。
 隣には蓮さんが眠っていたけれど、なにふり構っていられない。
 トイレへ駆け込み、迫り上がってくる胃液を吐き出す。

 ――さすがに、これはおかしい。

「もしかして……」

 ぺったんこな自分のお腹を撫でる。
 元々、生理不順なのもあって周期が狂いがちだ。
 だけど、あまりにもその兆しがない。この吐き気と、生理が止まっているかもしれない事実に、私はサァっと顔を青くした。

「すぐに、病院に行かなきゃ……」

 私の、勘違いでありますように。

 そう願って、水を流す。

 私はひとり吐き気が落ち着くまでトイレでやり過ごすと、彼の部屋ではなく、自分のベッドに戻った。

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