御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで

 ◇

「おめでとうございます、妊娠していますよ」

 産婦人科の先生がくるりと椅子を回して、私にエコー写真を差し出す。

 今日、私はこっそりと仕事を早退し、近くの産婦人科に来ていた。
 そこで検査をしたのだけれど、いま恐れていたことが現実になってしまった。

「九条さん? どうされました……?」
「い、いえ……。なんでもないです……」

 震える手でエコー写真を受け取る。
 もう既に妊娠三ヶ月に差し掛かるのだそうだ。
 幸いにして、嬉しさのあまり私が固まっていると思ったのか、先生はよかったですね、と笑った。

「……はい」

 まったく、よいことではない。
 だって、彼とは本物の妻ではない。契約妻なのだから。

 恋愛感情を抱かないこと。
 夫婦生活はしないこと。

 それらを破っただけでは収まらず、妊娠までしてしまうなんて。
 これでは完全に彼の人生を狂わせることになってしまう。
 所詮、お飾り妻である私が、彼との子どもを持つなんて。

「九条さん。次の方をお呼びしますのでそろそろ……」
「は、はい……」

 エコー写真を持って、ふらふらと病室を後にする。

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