御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「……私、夕飯の買い物してくるよ。なに食べたい?」
「なんでもいい。それよりも、本当に九条さんのところへ帰らなくていいのか」
「……うん。ちゃんと、彼には少し休みたいから実家に帰るって言ってるし……」

 もちろん嘘だ。だけど、いまはこう言うしかなかった。

「そうか。それならいいが……」

 それきり、父は何も言わない。
 私は重たい体を起こすと、外へ出る準備をして、夕飯の食材を買いに近くのスーパーへ向かった。

「はぁ……きつい……」

 妊娠も進み、気持ち悪さのピークは越えたような気もするけれど、まだふいに胃液が迫り上がってくる感じがする。

 私は休み休みスーパーで買い物をすると、また時間をかけてきた道を戻っていった。
 その途中で、一台の車が真横を通り過ぎる。
 たった十分ほどの距離を歩くのも辛くて、車があればなぁ、なんて思ってしまった。

 ――もう、無理……。

 早く家に帰りたい一心で、懸命に足を動かす。
 そうして見えてきた家の前に、黒塗りの車が止まっていた。

「さっきの、車……」

 綺麗に磨き上げられたボディと、見慣れたエンブレム。
 高級車だと一目でわかるそれに、私はサァと顔を青くする。

「まさな、そんなこと、ないよね………」

 だって、彼は今頃仕事をしているはずだ。
 それに、わざわざこんなド田舎まで私を追ってくるはずがない。

 そう思って部屋に入ったら、彼が何食わぬ顔でごちゃついたリビングの、茶色いテーブルの前で正座をしてお茶を飲んでいた。

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